吉野家が11月10日に発表した「10月の既存店売上高は前年同月比3.8%減」に対し、各メディア、満を持して投入した「牛鍋丼」の効果が「1ヶ月で早くも息切れ」と報じていた。果たして、吉野家は再び完全復活のシナリオを見失ってしまったのだろうか?
■客数の増加と客単価の減少
吉野家は牛丼の価格を380円に据え置いて、競合のすき家・松屋と同等の価格でありながら差別化を図る280円メニュー「牛鍋丼」を10月に投入した。結果は来店客の約6割が牛鍋丼を注文し1ヶ月で1000万食を突破。客単価は15.0%%減とダウンしたが、来店客数が24.5%伸びた。9月の既存店売上高は前年同月比5.9%増と、19カ月ぶりの対前年同月比プラスをもたらしたという。(11月13日msn産経ニュース)
■客数増加の鈍化と客単価減
「牛鍋丼」への注文集中は、客単価の低下をももたらした。10月の既存店売上高は、3.8%減となり対前年続伸とはならなかった。また、来店客数も10.6%増だが9月の半分以下。一方で、客単価は13.0%減と9月とほぼ同水準でダウン。「客単価の落ち込みを客数増でカバーできなくなった」(同・msn産経ニュース)として、各メディアは吉野家の「息切れ」とか「失速」という表現で報じている。
■吉野家は「280円デフレ」に陥るのか?
各メディアの報じるところは以上のような内容だが、前掲の産経ニュースはさらに踏み込んだ予想をしている。販売予定を遅らせて完成度を高めて投入した第2の280円メニュー「牛キムチクッパ」の効果に関する懸念である。500キロカロリーを切る低カロリーで、今まで取り込めていない女性客層を吸引して客数を増やす戦略で、「11月には当面、客数で7~8%、売り上げで5%の押し上げ効果がある」という、吉野家・安部社長のコメントを掲載しつつ、「2つになった280円メニューを注文する客の割合がさらに増え、看板の牛丼が売れず、単価の下落率がさらに広がるのは避けられそうもない」としている。
■原材料とオペレーションの問題は解決済み?
産経ニュースはアナリストのコメントとして、「280円メニューは集客目的が強く、利益率は高くない」。牛丼以外に複数の主力メニューを販売すれば、「原材料費に加え、店舗オペレーションが複雑になり、運営コストも上昇する」という問題も指摘している。
確かに利益率の問題は看過できないが、原材料費に関しては、牛丼の肉が米国産の「ショートプレート」という吉野家が牛丼に最も適した肉質とする肉のみを使用しているのに対し、牛鍋丼は米国産のその他の部位9割と豪州産を1割使用している。両メニューとも具材は85グラムだが、牛鍋丼はしらたきと豆腐が入っている。ごはんの量も牛丼より30グラム少ない。また、牛キムチクッパは肉は牛丼と同じ材料であるが、キムチも合わせて具材は70グラム。ごはんは160グラムだ。(日経MJ11月3日1面)
オペレーションの問題も解決を図っている。タレは牛丼・牛鍋丼・牛キムチクッパ3種とも異なるが、牛丼のタレが入った大鍋には、タレを各々の肉・タマネギが混じらないように仕分けして味をしみこませる工夫が施してある。調理の一部を共通化することによって合理化を図っているのだ。また、店舗に関しては現在、スクラップ&ビルドを進めているが、その中で客数が少ない店舗は厨房を客席カウンターの正面に配置して従業員の動きを効率化、店員の労働時間短縮・人数削減を図れるようにしている。(同・日経MJ)
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。