私たちは短期の目標達成に、毎期毎期忙しい。そんな中、何十年という時間軸で成し遂げていくライフワークについて考えたい。誰しもライフワークを見出すことはすでに始まっているのだ。
◆ライフワークとは「醸造する」仕事である
ベートーヴェンの交響曲第九の合唱曲『歓びの歌』は、ドイツの大詩人フリードリヒ・シラーの詩を元にしている。シラーが『歓喜に寄せて』と題した詩を書き起こしたのは1785年である。そして若き23歳のベートーヴェンは、1793年にその詩に出会い、そこに曲をつけようと思いつく。当時すでに音楽家として頭角を現し始めていたベートーヴェンであったが、やはり巨人シラーの詩には、まだ自分自身の器が追い付いていないと思ったのだろうか、それに曲をつけられず、年月が過ぎていった。
……そうして『ベートーヴェン交響曲第9番』の初演が行われたのは1824年。つまり着想から完成までに30年以上の熟成期間を要したのである。ベートーヴェンはその間、詩のことを忘れていたわけではないだろう。むしろ常にそのことを頭の中に持っていて、シラーの詩のレベルにまで自分を高めていこうと闘っていたのだと思う。
『英雄』を書き、『運命』を書き、『田園』を書き、やがて耳も悪くなり、世間ではピークを過ぎたと口々に言われ、そんな中、ベートーヴェンは満を持して、自身最後の交響曲として『歓喜に寄せて』に旋律を与えた。
私は、こうした生涯を懸けた仕事に感銘を受けると同時に、自分にとってはそれが何かを問うている。何十年とかけてまで乗り越えていきたいと思える仕事テーマを持った人は、幸せな働き人である。それは苦闘ともいえるが、それこそ真の仕事の喜びでもあるはずだ。
一角の仕事人であれば「時間×忍耐×創造性」によってのみ成し得る仕事に取り組むべきである。昨今の仕事現場では、スピーディーに効率的に仕事をこなすことがスマートでカッコイイらしいが、「即席×効率でない仕事」「熟成・醸造の仕事」は、それ以上にカッコイイ。スピーディーに効率的につくられたワインやチーズがおいしいだろうか。少なくともその類を私は食べたいとは思わないし、それをつくる側にもなりたくない。
◆ライフワークとは「何によって憶えられたいか」ということ
ビジネス現場で、私たちは日々せわしなく働いている。1年タームの目標管理は、半年ごととなり、四半期ごととなり、そして週ごとの報告があり、毎朝のミーティングがあり……。気がつけば、この会社に入って3年、5年、10年か、となる。私は30代半ばを過ぎたあたりから、次に紹介するピーター・ドラッカーと内村鑑三の言葉を、毎年、年初にダイヤリー手帳の1ページめに書くことを勧めている。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。