今日の不況は、デフレに起因して価値基準が変化し、一義的な問題として消費者が「モノを買わなくなった」ことにあるといわれている。しかし、「成熟市場」といわれる商品カテゴリーにおいてさえ、売れているモノもある。そこから何を学び取るべきなのか。
1月10日付・日経MJに東京・渋谷の「ロモグラフィー・ギャラリーストア・トーキョー」の記事が掲載された。「ロモ」はロシアや中国で作られたプラスチック製のフィルムカメラを輸入販売する会社だ。ピントが妙に甘かったり、ずれていたり、色のコントラストが極端だったりという写真に仕上がる「トイカメラ」と呼ばれるカテゴリーに属する商品だ。同ギャラリーでは数千円台の普及機から4万円台の高級機までのカメラを販売するほか、一般のDPE店のように、写真の仕上がりを自動補整してカメラの「味」をダメにしてしまわないようなプリントサービスも行なっている。キャラリーの壁には所狭しと、トイカメラで撮影された味のある作品が掲出されている。
今日、「トイカメラ」がなぜ流行するのか。それは、「できあがるまでどう映っているか判らないワクワク感」という一言に尽きるだろう。
写真という言葉を広辞苑(第6版)で調べると、以下のようにある。
(1)ありのままを写しとること。また、その写しとった像。写生。写実。
(2)物体の像、または電磁波・粒子線のパターンを、物理・化学的手段により、フィルム・紙などの上に目に見える形として記録すること
通常のカメラで撮った「写真」の意味は(2)であるが、広辞苑は原義を先に記述する用例となっている。
今日のカメラは人間の目に写った映像を「ありのまま」として記録することにおいては、既に完成の域に達している。人間の目というものは恐ろしく高性能にできている。一昔前のカメラで撮影すると、「こんなはずじゃぁ・・・」という仕上がりに映ることも多かった。それが、暗いところでも夜景と人物の双方がきれいに映るように露光が調節されたり、脳裏に刻まれた被写体の笑顔と寸刻も違わぬタイミングでシャッターが切れたりということをやってくれる。全て自動でだ。その意味ではカメラは「映すことを楽しむ機械」から「映ることを楽しむ機械」変化したともいえるだろう。
あくまで「映す」ことを追求する人々が購入することで伸長したカテゴリーが「一眼カメラ」だ。もはや成長余地がなくコモデティーと化して価格の下落も激しいコンパクトデジカメと比較して、一眼カメラはまだ伸びを示している。
しかし、その一眼デジカメにも変化が現れている。従来の機種よりもコンパクトで、操作が簡単な「ミラーレス一眼カメラ」が売れ筋となってきたのだ。従来型とは「写し方」において大きな違いがある。従来機は光学ファインダーを覗いて映る映像を想定し、シャッターを切り、その後で液晶画面で写りを確認する。ミラーレスは液晶画面で映すべき映像を確認しながらシャッターを切るのである。
特に昨今流行っているのは「ボケ味」のコントロールだ。カメラファンの言葉でいえば「被写界深度」。露出の絞りが開放に近くなるほど、ピントの合う距離(範囲)は狭くなる。それを計算して露出とシャッタースピードを設定すれば、映すべき中心の被写体を際立たせて背景をぼかした印象的な写真を撮ることができる。ミラーレスはその調節を液晶画面で確認して調節しながらシャッターを切ることができるのだ。つまり、事前にあらゆる撮影効果をコントロールすることができるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。