‘めんどうみ活動’に見る関係づくりの目的化

2011.01.19

営業・マーケティング

‘めんどうみ活動’に見る関係づくりの目的化

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

「CRM(Customer Relathiship Management)」については様々な定義がありますが、顧客接点の現場においては、「顧客との関係づくり」をすることによって「販売」に結びつける、という説明が一番、わかりやすいものでしょう。

従来のように、お客さんが誰であれ、「自社が売りたいものを売りつける」というのではなく、顧客のニーズをしっかり聴き、顧客にとって最善の提案をすることで信頼を培いつつ、モノを売る。

上記の考え方では、当然ながら、「関係づくり」が手段であり「販売」が目的です。

ところが、近年ではさらに‘進化’してというか、「関係づくり」自体を目的とする企業が登場しています。

つまり、(営業)スタッフは、お客さんが困っていること、役に立つことなら、本業と関係のないことでも喜んでやってあげる。こうしてお客さんとの関係を深めることで、お客さんは進んでそのスタッフからモノを買う。

ここでは、「販売」-むしろ「購入」と言ったほうがいい-が手段化しています。すなわち、お客さんはスタッフとの関係を維持するために、他店より割高でも、喜んで「購入」してくれるというわけです。

こんなお店の具体例として有名なのは、東京・町田市の電器屋さん、「でんかのヤマグチ」です。でんかのヤマグチは、「遠くの親戚より近くのヤマグチ」と言われるほど顧客から頼りにされており、留守番や犬の散歩をお願いされることもあるとか。結果として、カカクコムの最安値と比較したら2倍近くにもなる販売価格の家電製品が売れるのです。

実は、でんかのヤマグチのようなお店がほかにもあったんですね。パナソニックの系列販売店チェーン「セブンプラザ」でも、スタッフは基本的に「売らなくていい」のです。むしろ、顧客のために徹頭徹尾働くことを重視しています。

家電製品の設置や操作方法の説明、アフターサービスにきめ細かい対応をするだけでなく、「牛乳買って来て」「ケガしたから代わりに料理して」といった依頼にも対応する。同店ではこうした顧客のための活動のことを「めんどうみ活動」と呼んでいます。

スタッフの評価は、売上ではなく、「めんどうみ活動」をどのくらいきちんとやったかで行なわれるのだそうです。こうして、近くの大手量販店に行けば、はるかに安く買える製品が売れていく。お客さんが進んで購入してくれます。粗利益はでんかのヤマグチ並みの30%後半を達成しているのです。

現在、セブンプラザの加盟店は50店舗ほど。加盟前は赤字で苦しんでいたお店が8割を占めていたそうですが、加盟後は9割が黒字転換しているとのこと。

このような関係づくりに力を入れる、言い換えるとサービスを最重視するお店が成立する背景には、近年の製品の高度化・複雑化と、高齢化が進んでいることがありそうです。しかし、この環境変化は多くの業界に共通していることですね。

とすれば、セブンプラザ、またでんかのヤマグチのように、「関係づくり」自体を目的化する取り組みは、今後のマーケティング&セールスのあり方に大きな示唆を与えているのかもしれません。

*セブンプラザについての出所:
日経ビジネス(2011.1.10)特集“非効率経営”の時代

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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