先が見えない時代。既存ビジネスだけで勝負するのではなく、常に新たな成長戦略を描くことが欠かせない。また、生き残りの展開を探らねばならないこともある。では、その時に何を頼りにすればいいのだろうか。
■文具大手とDPE最大手の次の一手
文具大手のキングジムが造花レンタル事業に参入するという。キングジムといえば、いわずと知れた、「キングファイル」のメーカーだ。最近ではテキスト入力に機能を絞ったデジタルメモ機「ポメラ」が累計販売台数10万台のヒット商品となるなど、デジタル機器領域にも進出している。しかし、その次は何と、「造花」だという。
一方、DPE(写真の現像・焼き付け・引き伸ばし)のキタムラは、中古時計の買い取り・販売を始めると発表した。キタムラはフィルムカメラの衰退と、パソコン+プリンターによるホームプリントの普及、デジタルカメラや携帯電話の記憶媒体の大容量化で、撤退や縮小が相次ぐDPE市場に踏みとどまっている最大手である。
■次なる成長領域と収益源を探して
1月21日付・日経MJに「キングジム 造花レンタル事業参入 法人向け、多角化加速」という記事が掲載された。実に「シェア50%」と記事にある。しかし、同時に「主力のファイル市場が頭打ち」で「伸びる余地は少ない」ともある。それが多角化を展開する背景であるという。
同日・同紙には「キタムラ、中古時計に参入 収益源を多様化」という記事も掲載された。前述の通り、縮小するDPE市場において、キタムラは持ち込まれた古い時計の査定や買い取り、販売を行ない、修理やメンテナンスも専門の会社と連携して展開する。そこにはタイトルにある通り、落ち込むDPE収益を補う収益源とする狙いがあるという。
■キングジムの勝算
レンタル先、ターゲットはタイトルにある通り、法人。製品(Product)は受付や応接室に飾る人工観葉植物と造花。価格(Price)は購入すると1万円以上するところを、年4回入れ替え・回収作業込みで月額2,500円だという。
人工観葉植物は手入れが楽だ。水をやり忘れて枯らすこともなく、伸びすぎた枝を切ったり落ち葉を掃除したりする手間がいらない。造花も生花と違い水替えもいらず、枯れた花を始末したり、新たに買ったりする必要もない。レンタル人工観葉植物と造花の利点は、レンタルならではの「初期費用の安さ」と、観葉植物・生花と比べた「ランニングの手間とコストの削減」という、いいとこ取りを実現できる。それがポジショニングである。
ポジショニングが活きるのは、販路(Place)と販売促進(Promotion)においてである。販路は事務機の既存の営業先・法人チャネル。販売促進はいわゆる「人的販売」。営業部隊が製品メリットを説明・説得するのだ。
上記のように見ていくと、「当たり前」な展開に見えるが、その当たり前な「手堅さ」こそ、キングジムの狙いなのだ。単なる造花メーカーが営業部隊を作って法人チャネルを開拓しようとすれば、極めて高いハードルを越えねばならないからだ。なぜなら、セキュリティーが厳しい今日、飛び込み営業もままならず、市場にも法人の担当者にダイレクトメールを送れるようなリストも出回っていないからだ。営業先が確保できないのである。キングジムにはその営業先がある。その資産があってこその展開なのである。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。