暴走する上司と、それをたしなめる部下。

2011.01.25

組織・人材

暴走する上司と、それをたしなめる部下。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

上司がプレイヤーを脱しきれない原因の一つに、若手の仕事へのスタンスが変わったことがあるのかもしれない。

20年くらい前に採用担当者をやっていた頃の話。どうしても採用したかった学生と京都で会っていた時、その彼が他の会社のリクルーターと東京でこれから会うというので、急遽、自分もそのまま一緒に新幹線に乗っていったことがあります。会社への連絡は新幹線の中から。その日は東京本社で社長や部長クラスが夜まで残って、彼を説得してくださり無事に採用することができました。

福岡では、ある有名企業が会社説明会をやっていたホテルの前で待ち伏せて、良さそうな学生が出てきたところで声をかけ、喫茶店に連れ込んでフォローし、後日、大阪へ呼び込み。何度も口説いて内定までこぎつけたことがあります。一つ目はストーカーみたいなもので、二つめはナンパで、いずれも無茶な仕事の仕方でありました。

例として良くなかったかもしれませんが、この頃は、私だけでなくどこの会社でも、若手は後先考えず結果を追い求めて突っ走り、上司はそれがとんでもない結果にならないように歯止めをかけたり、たしなめたりするという役割でした。あるいは、若い者はたいてい、単なる思いつきや勢いで行動してにっちもさっちも行かなくなるものであり、上司はそうなることを最初から分かっているかのように適時に支援をするという日常でありました。

若いからといってそんなに阿呆でもなかったとは思うのですが、リスクをあまり考えず、うまくいかなくなってすぐにもがき、まるで失敗にわざと突っ込んでいっているようなものでした。上司だってそんなに大したことはなかったと思うのですが、上手にリスクをコントロールしたり、トラブルに対処したりしていたのも不思議なことです。そして、部下も上司も組織としても、それなりに進化していったように感じます。

最近の様子を見ますと、このような仕事の仕方や部下・上司の役割分担はすっかりなくなっています。部下は最初から計画を立て、リスクを見通し、上手なやり方を考えて取り組む“賢さ”を身につけています。上司もやる前から、ミスをするな、ルールを守れと言ってリスク第一の指導を行います。こういうのは、失敗や間違いがないという点ではいいのですが、可能性に焦点が当たらず、挑戦しないので想定外の成功や達成が起こりにくくなりますし、改善・工夫を実践しないのでいつまでも同じことを繰り返すことになります。

これじゃあ目標達成はないし、仕事にも進化が生まれないし、組織も活性化しない・・・ということに気づいて、上司は新しいこと、前例踏襲ではないチャレンジをしようとして部下に投げかけます。そうすると部下はしたり顔で、失敗する可能性、シナリオの不完全性、他の方法との比較検討や効率の検証の不十分さ、といったものを指摘して受け入れないし、やろうともしない。最近、よく見る光景です。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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