大阪の折りたたみベッド・健康器具等の中堅メーカー、株式会社アテックスには大ヒット商品がある。「ルルドマッサージクッション」。見た目はスクエアなただのクッションだが、中味は本格派マッサージ機であるという。しかしそのカタチには「オトコとオンナの違い」が詰まっているのである。
「顧客はドリルが欲しいのではない、穴が空けたいのだ」。
消費者が真に必要としている「ニーズ」と、それを実現するためのモノである「ウォンツ」の関係を最も端的に表した言葉である。「○○をください!」と言われたら、「ハイどうぞ!」とモノを売るのではなく、真のニーズを探り当てて最適なモノを提供しなければならないということを説明する時に用いられる。
2月4日付・日経MJコラム「着眼着想」にも取り上げられた、大ヒット商品の「ルルドマッサージクッション」とはこれだ→<アテックス社・商品ページ>
日経MJの記事によれば、「使用場所を選ばないクッション型」には「本格的なもみ心地」が秘められている。「通常のクッションとしても使える」だけでなく、「寝そべっても座っても身体に合う形」を求めて「試行錯誤を繰り返して現在のピラミッド型にたどり着いた」という。また、「ちょうどマッサージしてくれる人の手の温度」のヒーター内蔵のもみ玉を装備しているという。
う~ん、36センチ四方のその小さな商品には、何ともうれしい機能が満載だ。
もう少しその魅力を細かく分解して価値構造を明らかにしていこう。
消費者がマッサージ機という「ウォンツ」に求める「ニーズ」は「カラダが楽になりたい」ということだろう。つまり、「やさしいマッサージ」が商品の「中核価値」だ。それを実現する「実体」は、場所を取らずにカラダにフィットする形状と、温かなもみ玉。さらに商品の魅力を高める「付随機能」が、通常のクッションとしても使えることだ。
さて、とかくカラダにムリをしがちな現代人にとっては、誰にも魅力的な商品であるように思われるのであるが、記事では「発売に至るまで男性社員の反応はいまひとつだった」という。その理由は「パッと見た時に用途が不明」「電源の位置がわからない」などだったという。
さても、男と女の間には黒くて深い川がある如く、わかり合えないものなのか。ところが、アテックス社の女性開発担当者は、エンヤコラと川を渡る船を出してRow and Rowと漕いだりはしなかった。「周囲でも買い物の決定権の7割は女性にある」と「女性視点を貫いた」(記事より)という。
(ちなみに黒くて深い川の話がピンとこないお若い方は、直木賞作・「火垂るの墓」、童謡「おもちゃのチャチャチャ」作詞の野坂昭如をググってほしい。「黒の舟歌」という曲だ!)
「カラダが楽になりたい」というニーズには男女差はない。また、フィリップ・コトラーの「製品特性3層モデル」で分解して考えた「価値構造」で考えても、受入れがたい価値の差異はないはずだ。しかし、決定的に違っているのは、オトコは「パッと見て効果・効能がわかりやすい」という「機能美」を求め、オンナは「マッサージ機にすがっているんじゃないわよ」的な「らしくなさ」を求めていたのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。