メディアが伝えるように、大手牛丼3社の1月の各社既存店売上高が発表された。各社とも期間限定の値下げキャンペーンを実施したこともあり、客数を伸ばして2ヶ月連続の増収となったのだ。さらに注目すべきは、値下げ戦争をしながらも、各社が戦略の違いを打ち出しており「出口」を探る動きが見えてきたことである
■牛丼戦争と消費者の受け止め方
牛丼値下げ合戦がテレビなどのメディアで伝えられる時には、必ずと言っていいほど「不景気なので10円でも安い方が助かります」とかインタビューに応えるオジサンとか、「みんなの分まで頼まれて大変です!」と牛丼弁当の入ったレジ袋を両手にさげた若い会社員の映像を流す。そして、「消費者の懐にはありがたいが、牛丼各社は大変だ」的な落としどころとなる。しかし、ネット上の掲示板やSNS、Twitterなどの書き込みを見ると異なる意見が散見される。「もうそこまで値下げしなくいていい」「さすがに品質が心配」などなど・・・。もはや牛丼の価格は、消費者の需要価格の最下限を下回り始めているのである。
では、各社はどう動き始めたのか。
■松屋:定食屋化をひた走る
松屋は9日、先月に引き続き牛丼(牛めし)を14日から値下げするキャンペーンの発表を行なった。「松屋はどこまでもやる気か!」と思わせる展開であるが、よく見ればキャンペーンには続きがある。牛めしの値引きが終了するやいなや、キャンペーンは牛焼肉定食、カルビ焼肉定食と続く。焼肉系定食は松屋の中でも高単価だ。ガッツリ食べたい派向けの肉量を2倍にするメニューは1,000円近い。定食メニューが豊富であることが好評の理由である松屋にとっては、牛めしはもともと集客のツールでしかなく利益を出せるとは考えていないと思われる。それを、定食にも手を出しやすい連続値下げキャンペーンによって、来店客を「出世魚」のように徐々に高単価メニューに誘う作戦なのである。それは、松屋が「定食屋化」を強める動きであると考えてもいいだろう。
■すき家:高効率ペレーションと単価アップのバランス
牛丼戦争においてキャンペーンでない時に最低価格を提示している、すき家を運営するゼンショー。そのバランスシートを見ると売上げも大きいが負債の大きさも目に付く。さらに、その中でも1年以内に返済期限が来る短期有利子負債の比率が大きい。手持ちのキャッシュが比較的大きく、財務的には安定している吉野家と比べると対照的だ。それ故、低価格にして客数を増し、「日銭」をどんどん稼ぐことが必要だといえる。
1月の値下げ合戦の後、ゼンショーが展開するすき家には1つの珍しいメニューが登場した。「牛まぶし」。名古屋名物ウナギの「ひつまぶし」の牛丼版で、途中まで食べ進めてから薬味とだし汁をかけるというものだ。価格はミニ(230円)~メガ(810円)と量が6段階あるが、実は牛丼は通常の牛丼と何ら変わらない。だし汁と薬味でプラス200円というオイシイ商売である。もともとすき家はキムチやチーズなど様々な牛丼のトッピングが人気であり、それによって約100円のメニュー価格アップを実現している。それをさらに強力にしたメニューというわけだ。つまり、最低価格で集客し、トッピングやそのバリエーションでさらなる客単価向上を図る施策を今後も強化すると考えられる。
しかし、単純に単価アップが図れればよいというわけではない。すき家は競合の中でも最も店舗オペレーションが効率化されており、店舗クルーの一挙手一投足までマニュアル化され、それを徹底する教育がなされているという。そんな中で、メニューを複雑化させることは効率悪化をもたらす。効率を下げずに単価アップをするためのメニューがトッピングであり、「牛まぶし」なのだ。今後もそのフォーマットでのバリエーションが登場すると考えられる。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。