サントリー「オールフリー」が、先行するキリン「フリー」に敢然と牙をむいた。その緻密な戦術を分析してみよう。
従来「ノンアルコールビール」といわれていたものは、法律では酒類に含まれなかったものの、0.1%程度のアルコールを含有していた。それをキリンが世界で初めて「発酵させない」というビールと全く異なる新製法で、ドライバーや妊産婦でも安心して飲める「全くアルコールが含まれていない」製品を実現した。2009年4月発売の「キリンフリー」だ。2010年は520万ケース(1ケース大瓶20本換算)を販売(日本経済新聞より)し、2009年日経MJヒット商品番付の西の横綱に輝いた。大ヒットのワケは、モノとしての特性だけでなくネーミングの功績も大きいだろう。通常、飲料において「ゼロ」というと基準量あたり一定までの含有は認められている。例えば、「ノンカロリー」「カロリーゼロ」は 食品100g(ml)あたりの含有量が、5kcal未満を意味する。そこを「Free=~が入っていない」、つまり、アルコール度数0.00%という製品特性のユニークさを明言したのである。
猛追するのがサントリーの「オールフリー」だ。2010年8月を開始したところ注文が殺到し、わずか1週間で販売を休止したことでも話題となり、2010年中に200万ケースを販売(同)。製品の特性としてアルコールが0.00%なだけでなくカロリーゼロも実現し、それを端的に商品名で訴求している。
3月16日付・日経MJには「サントリー、ビール風味飲料拡販、家庭用、ロング缶投入、業務用は取扱店2倍に」という記事が掲載された。「支持を集めている家庭用でロング缶(500ミリリットル)を用意するなど品ぞろえを増やして商品力を底上げし、業務用でも取扱店を現在の3万店から2倍の6万店に引き上げる計画だ」とある。目標は「前年の2・5倍の500万ケース(キリン「フリー」は520万ケースの販売を想定)」だという。
飲料において、同一製品でも容量の違いはターゲットやその利用シーンの違いを意味する。サントリーは「たっぷり飲みたい男性やカップルで分け合って飲みたい消費者」(同紙)を狙っているという。そのためには、新たなラインを構築し製品(Product)を製造しなければならない。その労力と費用を覚悟の上での「ロング缶投入」なのである。
製品を作っただけでは売れない。広告・販売促進(Promotion)を通じてターゲットに認知させることが必要だ。サントリーは「釣り船や釣り宿でサンプル商品を提供。レジャー気分を盛り上げるアイテムとして利用してもらうほか、高速道路のサービスエリアでも配布する」(同)という。この展開は、チャレンジャーならではのユニークなターゲティングだといえよう。同じ性別や年齢層でも、利用シーンによっては全く異なるターゲットとしてとらえ直すことができる。つまり、今までキリン「フリー」が取り込めていなかった飲用シーンで試用させ、ブランドの刷り込みを図っているのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。