企業がITに期待した「効率化」。なぜ期待とは逆に、余計に忙しくなってしまったのか。
企業がITに最も期待したことは、「業務の効率化」でありました。色々な仕事が、少人数で、短時間で、間違いなく進んでいくものと想像しました。今でも、恐らくそう期待している会社は多いでしょうし、システムを販売する会社がウリにするのもそれが中心です。ところが現実は、早く終わって帰れるわけでもないし、何でもスピーディーに片付くようになった感じもせず、逆に、忙しくなった気がすると言う人が多いのが実際です。すっかりパソコンとインターネットと様々なソフトが普及し、これからもそれなしには仕事ができない状況は変わりませんが、IT化するとどのようなことが起こるのか、そのデメリットや問題点を冷静に考えておくことは大切なことであると思います。
なぜ期待通りの「業務の効率化」が進まず、余計に忙しくなってしまったのか。まずは、「情報収集をしすぎてしまう」ことがあります。検索すれば、関連情報を際限なく収集できますし、社内外からデータや事例などを送ってもらうこともメールを使えば容易です。“たくさんの情報があれば、必ず正確な判断が可能になる”という前提でモノを考える人も多いので、とにかく調べる。どんどん検索する。これ以上の情報収集は無理だと判断できた昔に比べれば、インターネットを使って情報収集をしている時間はまさに激増したと言ってよいでしょう。
そうすると、「資料の量が増える」。自分の意見や提案が正しいことは、これだけ沢山の情報によって証明されていますよ、これだけデータを集めた努力も含めてお願いしますよと言わんばかりの資料の多さ。見る気が起こらないほどの、それも老眼には厳しいような小さい文字で、詳細なデータをビッシリ添付されても困るし、よく聴いてみたらそれは2~3枚にまとめられるだろうと感じるけれども、本人はどうだと言わんばかり。検索して集めたデータをコピペした程度の、頭も手間も大して使っていない簡単な資料がどんどん添付されていきます。IT化によって紙の量が減ると考えられた時期もありましたが、逆に増えたのではなかろうかと想像します。
また、「出来映えにこだわってしまう」人が増えました。文字を変えることができるし、線も引ける、デザインもできるわ、画像も貼れる、と見栄えをよくしようとすれば、これも際限なく可能です。それでもう十分な出来なのに、いつまでもこだわってソフトの機能を探したり、試したり、人に訊いたりしている人が非常に多くなりました。もちろん細部にまでこだわるのは良いことでありますが、ソフトに用意された様々な機能に目を奪われ、踊らされて、仕事の目的とは関係のない出来栄えや、効果の薄いこだわりに多くの時間が割かれてしまっているのだとすると、効率化の観点からは問題です。
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2010.03.20
2015.12.13
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。