1987年のアサヒ「スーパードライ」発売以来、ビールのシェアを侵食され、ビール系飲料全体でも2001年についに41年ぶりに首位陥落の憂き目を見たキリン。その後、第3のビールの拡充などで09年に9年ぶりの首位奪還を果たし、営業強化をはじめ様々な改革を断行している。
4月13日付・日経MJ1面に「キリン復活へ 営業力支えろ」という記事が掲載された。メインは「営業力底上げ策」に関する記述だ。第1に挙げられているのが、「非ビール品揃え圧倒」。従来のビール一辺倒を改め、ロードサイドチェーンにはノーアルコールの「フリー」を中心にドリンクメニューを全体提案し、料飲店を取り込みアサヒの版図を塗り替えているという。それは、スーパードライの成功体験から抜けきれない、例えば第3のビールやノンアルコールがスーパードライとカニバリ(共食い)を避けたいという意向が働くアサヒの弱点を突く戦略だ。
営業以外にも注目すべき記述がある。「調査・開発研究者が融合」「市場の流れ、迅速に反映」という部分だ。キリンでは従来、「商品開発研究所はマーケットで何が売れるのかを調査したうえで商品全体の骨子を設計、その情報に基づいて酒類技術開発センターが新技術を作り上げるという分担があった」とある。
調査・開発、即ちResearch&Developmentともいわれるが、RとDの壁は実際には厚い。記事に一例がある。08年に発売した第3のビール「ストロングセブン」。「節約志向が高まる中、アルコールを通常よりも高い比率にすることで手早く酔えるという価値を提案。という着想は抜群によかったが、商品開発研究所と酒類技術開発センターとの連携は“アルコール度を高める”ところで終了してしまい、香味におけるもう一歩踏み込んだ開発という肝心な点にまで至らなかった」(記事要約)という。
組織の壁は厚い。組織・部門に振り分けられた社員のココロの中にも、見えない壁がある。その「壁を壊す」象徴として、キリンは「物理的な壁」を取り払ったのである。
キリンのアプローチはユニークだ。「今年1月。横浜工場(横浜市)にあるキリンビールのテクニカルセンターで、6階の壁が取り払われた」という。「組織の壁」を物理的に取り払ったのである。「全員が顧客の顔を思い浮かべながら新商品を開発する体制を作る」という狙いどおり「商品開発研究所と酒類技術開発センターの研究者たちが壁の撤去を境に、融合に向けて動き始めた」という。
組織を超えた情報共有と業務の融合は、本田技研工業が伝統的に「ワイガヤ」という社内文化を保っている。
<「ワイガヤ」とは、時と場所を選ばずに気軽に集まってワイワイガヤガヤ言いながら、徹底的に議論するということです。職位や資格にとらわれずに自由に話し合うことによって、新たな知恵やアイデア、目標などを生み出すというものです。>(本田技研工業Webサイトより)とある。それは、ホンダの「自由闊達な組織風土」を代表するものであり、原動力であるとしている。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。