マーケティングマネジメント全体の中でも価格戦略(Price)は重要な要素だ。製品(Product)を作る、販路(Place)を構築・維持する、広告・販促(Promotion)を展開する。マーケティングの具体的施策は全てコスト要因である。それ故、価格戦略を失敗すると、利益を生むことができずコストも回収できないことになるからだ。
■値下げ原資はどこから捻出する?:キユーピーの場合
キユーピーは、9月1日から、咀嚼・嚥下能力が低下した高齢者向けの家庭食のうち20品について、小売価格を200円から180円へ引き下げると発表した。同社が家庭用高齢者食を初めて発売したのが1998年のこと。翌1999年に「キユーピー やさしい献立」としてブランドを立ち上げ、アイテム数を増やし現在49品目を数えるという。
この間、販売店舗数の増加・通信販売の強化を図り、身近な場所で購入できる環境を整えつつ、経済的な負担も考え、毎日使えるように価格の引き下げも行ってきた。2010年には20品を250円から200円へと引き下げた。この結果、物量・売上ともに伸張し、2011年度の物量は前年比140%で着地する見込みだという。さらにこの秋、より一層のコストダウンを図り、200円から180円へ引き下げる。(以上、7月30日マイライフ手帳@ニュースより抜粋)
価格設定には自社(Company)・顧客(Customer)・競合(Competitor)の3つのCの視点が必要だ。その意味では、キユーピーの狙いは明確である。自社が市場を広げ、さらに値下げによる売上伸長の実績を元に、顧客がさらに手を出しやすい100円台とし、競合の台頭を抑えこむ戦略であると思われる。低価格に設定して市場のシェア押さえる価格戦略を「ペネトレーション・プライシング(市場浸透価格)」という。スケールメリットを活かして原価を低減し利益を捻出する一方、競合に対して低価格で参入障壁を築くのである。
(逆に高利益率を狙うのは「スキミング・プライシング(上澄み吸収価格)」という)。
値下げは報道にある「コスト削減効果」だけで決定したわけではない。“利益=売上-コスト”なので、当然、売上増も見込んでいる。また、“売上=客数×客単価”なので、低価格化でターゲットとなる購入層を広げる狙いもあるのだ。
上記の例では、利益=売上-コスト、売上=客数×客単価という最も基本的な考え方で考えたが、モノゴトはもっと分解して考えることによって問題点やチャンスが見えてくる。商品の価格・単価だけではなく、売上を分解して考える事例をみてみよう。
■「売上」を分解して考える:伊勢丹の場合
大震災とその後の原発事故による節電は、各産業の業務のあり方を一変させてしまった。それは百貨店も例外ではない。伊勢丹は8月に首都圏の3店舗で定休日を復活させ、新宿本店も4日間休むという。節電のためだけではない、業界に先駆けた動きの狙いを「お客さまの話をきちんと聞いて接客時間を長くするため」と同店の店長が日経MJの記事で応えている。
同記事には以下の記述がある。<交代で休んでいた従業員が一斉に休むことで、逆に営業日の店員数は大幅に増える。これを目に見える形で接客力の向上につなげ、「客単価を引き上げたい」と意気込む。定休日を作れば売上高が減るという指摘に対しては、「これまで百貨店は営業時間を長くしてきたが、売り上げ増にはつながらなかった」と断じる。>
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。