スポーツ用品販売のゼビオが7月下旬に横浜市に開業した新型店舗「XSPOT(クロスポット)」。そこでは、シューズやテニスラケット、インラインスケートが無料で貸し出しされ、近くの新横浜公園内の施設で利用できるという。その販売戦略を読み解いてみよう。
8月24日付日経MJの連載記事「販売拠点 あすを拓く」でゼビオのXSPOT(クロスポット)が紹介された。タイトルには「スポーツ用品 試して購入」とあり、同施設の概要が囲みでまとめられている。
▽開 業 2011年7月29日
▽所在地 横浜市港北区小机町3302の5
▽売り場面積 504平方メートル
▽ポイント
①スポーツ用品の最新モデル80種類 300点を無料レンタル。気に入れば購入可能。
レンタル用品は順次拡大
②シャワールームを完備しランニングステーションとしても利用可能
③新横浜公園内の施設でイベントや運動スクールを運営 (以上記事より)
<試してから購入できる施設は全国初>という画期的な試みだが、<当初はブースでの展示だけだったが、来店客の要望が強く、現在では展示品のうち7割を貸し出すようにした。今秋までに全商品を対象に広げる方向で検討している>と、顧客からの要望に後押しされて誕生した形態であることがわかる。ゼビオとしても<これまでもゴルフクラブやテニスラケットの試打やサプリメントの試飲などを積極的に開くなかで、商品を使用してもらった方が購入率が高いことがわかっていた>との勝算もあったという。
節約志向は依然として高いが、多くの人が趣味の用品には財布のひもは緩みがちである。だが、クラブやラケットならまだしも、シューズは買っていざ走ってみたら足に合わなかったとなったらガマンできない。購入前に丁寧なコンサルティングや足形の診断をしてもらえる店もあるが、空前のランニングブームで今も産まれる初心者ランナーにとって、自分の希望やフィット感を正確に伝えることは意外と難しい。履いて一定時間・距離を走ってみるのが何より安心であり、確実だ。「お試し」の意味は大きい。納得して購入した客はロイヤルティーも高くなる。<ロッカーやシャワールームを完備している点が受け、来店客はランニング愛好者が中心>と記事にある。
店内で待つだけではなく、積極的に打って出る展開もしている。<店員がスポーツ用品を積んだリヤカーを引き、公園で遊ぶ人たちに声をかける。トライオンキャラバンと呼ぶ取り組みで、商品説明をした後、30分程度利用してもらう>という。さらに、フットサル大会やサッカー教室、ランニング教室の開催などイベントの積極的開催も行っているという。
消費者が商品を認知してから購買行動に至るまでの態度変容を表したモデルは「AIDMA」が有名だ。A(Attention:認知)→I(Interest:興味)→D(Desire:欲求)→M(Memory:記憶)→A(Action:行動)である。しかし、そこには2つの弱点があることに留意が必要だ。
1つは前述の通り、ランニングシューズのように「試さなければわからない」という商品の場合、そこが1つの購入のハードルになることだ。ゼビオはクロスポットで「お試し」をさせることで解決している。
2つめがAIDMAのActionは初回の購入までは設計できるが、顧客の囲い込みの設計ができないことだ。スポーツ用品を買ってもらったら、使い続けてもらい、ソックスやスポーツドリンク、サプリメント、テニスならラケットのガット、ボールなど関連商品を購入してもらったり、商品の買い換えをしてもらったりしたい。だが、得てしてスポーツには三日坊主や挫折などが付きものだ。いかにして日常的に使用してもらい、さらにはロイヤル顧客になってもらうかを設計しなくてはならない。ランニングした後、さっぱりするという気持ちよさを提供するシャワールームで、ランニング後に気になる汗やカラダの臭いなどのネガティブ要因を払拭し、クロスポットをスタート&ゴールとするコースを日常的に利用してもらう。さらには、各種の教室、イベントでレベルアップしたり仲間を増やしたりしてロイヤルティーを向上してもらう。そんな仕掛けがクロスポットには用意されているのだ。
上記を態度変容モデルで表すと、AMTULというモデルになる。A(Awareness:認知)→M(Memory:記憶)→T(Trial:試用)→U(Usage:日常利用)→L(Loyal:ファン化)である。ゼビオのクロスポットは単にお試しを獲得して購買をし苦心するだけではなく、日常的に継続利用して囲い込む、ロイヤル顧客育成の戦略拠点として機能しているのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。