コンビニで異彩を放つあの商品。飲料の新商品導入ではとりわけコンサバティブなセブンイレブンでも先週、緑茶飲料棚の一角をついに確保した。しかし、別のチェーンではコーヒー飲料棚の端に陳列されている例もある。さて、誰を狙っているのだろう。
緑茶飲料のパイオニアといえば、伊藤園の「お~いお茶」。長らくトップの座を守っている。チャレンジャーが現れたのは2000年のこと。松嶋菜々子が「お茶にも生があったんだ」と、柔らかな甘みを感じさせる緑茶の新しい味を訴求しキリンビバレッジ・「生茶」が「お~いお茶」を追い上げた。両ブランドの死闘が続く中、2004年に彗星の如く現れたのがサントリー・「伊右衛門」である。老舗・京都福寿園の茶匠が選んだ茶葉だけを使用するという、「お~いお茶」の伝統・本格派という訴求と真っ向対決する価値を世に打ち出た。本木雅弘演じる茶匠・伊右衛門と、宮沢りえが演じるその妻を中心とした世界観が広がるCMも人気で、一気に生茶のシェアを抜き去った。
そんな伊右衛門ブランドから市場に投入された新商品は、何と「エスプレッソ」である。
サントリーのニュースリリースによると、<抹茶の深いコクと余韻を愉しめる新しいタイプの緑茶飲料>であり、<“エスプレッソコーヒーのような濃厚でコクのあるお茶”であることをお伝えするため、商品名は「Green ESPRESSO(グリーンエスプレッソ)」>であるという。本木雅弘が舟に乗り周囲を眺めると、水墨画の風景が広がっていくという印象的なCMも大量に流されている。
商品のパッケージ(外見)も印象的だ。黒のストライプをベースに、抹茶の粉末を鮮やかな緑色で控えめに表現しつつ、背景に“和”のイメージとして松の木のイラストがあしらわれ、CMの水墨画の世界観と連動している。ボトルは口広ボトル缶で、香りを強調するアロマ系のコーヒーと見まごうばかりの仕上がりだ。
中身はといえば、あえてボトルからコップに移し替えてみるとその色にちょっと驚く。イメージしていた抹茶の鮮やかな緑ではなく、渋そ~な深緑をしている。花王のトクホ飲料「ヘルシア緑茶」のようだ。だが、その味に渋みは全くなく、何よりも馥郁たる風味が立ち上る。外見・中身・風味のバランスが極めて良いことから、CMで認知し、店頭で商品パッケージを手に取って見れば一度試しに飲みたくなり、飲めば風味の虜になるという設計だろう。
飲料市場の環境を見てみよう。全国清涼飲料工業会の「清涼飲料関係統計資料」によれば、茶系飲料は飲料市場のうち販売量トップを占めている。かつては「お茶は自分で淹れるもの」という日本人の価値観が大きく転換したことがわかる。しかし、右肩上がりは2007年を頂点に反転している。リーマンショック以降、急須で茶葉から淹れることに回帰している様が見える。その他、清涼飲料に関しては全般として右肩下がりが顕著な中、ミネラルウォーターがじわじわと使用量を増すほか、コーヒー飲料は横ばい~微増であるが全体ボリュームは多く、根強いファン層を抱えていることがわかる。
缶コーヒーはロイヤルユーザーほど1日の消費量が多い。また、加糖・微糖・無糖のカテゴリーがあるが、ヘビーユーザーほど加糖を好みブランドスイッチもしにくい。一方、コーヒー全体で考えるとコンビニのチルド商品や、口広ボトル缶などが「本格」のポジションを狙っている。その中でもチルドにはストレートがなく、口広ボトル缶は香りもにおいて、まだユーザーのニーズを充足できていない。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。