良いマーケティング戦略には「整合性」がある。自社を取りまく外部環境、ターゲット、そして施策展開など一連のマーケティングマネジメント全体が結びついて成果を上げるのだ。
本論に進む前に、わかりやすい事例から見ていこう。
10月14日付日経MJに<秋葉原にイヤホン専門店>という記事が掲載された。9月に開業したタイムマシン(大阪・浪速)が運営する「eイヤホン秋葉原店」という店だ。秋葉原でイヤホン、ヘッドホンの専門店とは確かにマーケティングの4Pのうち、Place(流通チャネル戦略:店舗においては立地戦略)とは整合しているがアタリマエすぎる感じがするだろう。だが、その他の要素ともしっかり整合しているがキモなのだ。
店名通り、Product(製品戦略)は店舗自体を「商品」と考えるとわかりやすい。顧客への提供価値は「品揃え」と「試聴可能な機種の多さと店内放送のない環境」、「店員のアドバイス」と充実している。Promotion(販売促進戦略)は商品の大量陳列と試聴体験を全面的に押し出している。 Price(価格戦略)は中心価格帯が一般的家電店の3から4倍と高めにだが、それは、他の商品の「ついで買い」ではなく、ヘッドホンに関与度が高い層だけを狙うというターゲティングを明確化しているからこそできることだ。
ワールドが運営する10代女子向けの衣料品店「ピンクラテ」。10月16日付日経MJの記事ではティーン向けのアパレルの事例として掲載されている。店名通りピンク色が目にも鮮やかな店内で品定めをするローティーンの女の子たちが映った記事写真には、<多くの商品の価格が5000円以下に設定され「109系」と呼ばれるブランドよりも一回り安い>とキャプションがある。タイトルは<値ごろ感、10代女子つかむ 衣料専門店、SC(ショッピングセンター)にも出店 小遣い減少「安カワ」に支持>とにある。
記事を見るとマーケティング上の「整合性」がよく見て取れる。
3C分析的に見てみると、まずCustomer(市場環境・顧客ニーズ)。景気は長く低迷し、それが常態化した。マクロ環境が変化したのだ。顧客のニーズも変化している。<「昔は見え張りで109で買うことがステータスだったが、いまは買う場所へのこだわりは少ない」(ファッション誌編集長)>だという。Competitor(競合の動き)は、「しまむら」の主に高校生向けのPB「ソリデル」は3~8月の販売が前年同期の5倍、「ポイント」の10代女子向けブランド「レピピアルマリオ」も既存店が売上2桁増だとある。顧客である10代女子のKBF(Key Buying Factor=購買決定要因)がタイトルにあるように、安くてかわいい=「安カワ」になってきていることを示している。では、Company(自社)としてのワールドのピンクラテはどのような戦略取っているのか。
前掲の通り、「見え張り109系」ではない。地元や近郊のSCに通い、休日には親と一緒に来店するような女の子がターゲットだ。ターゲットは本人だけではない。<SCの店舗なら「休日に親と一緒に来て、ねだることも可能」(ワールド)>と、DMU(Decision Making Unit=購買関与者)もしっかり巻き込んでいる。ポジショニングはユニクロが「価格」×「品質」で優位なポジションを確立しているように、「価格」×「可愛さ」を際立たせている。記事でも<「安くてオシャレ場ブランドが好き」>とユーザーの声を紹介している。
Product(商品)は、ちょっとギャル系も取り入れたイマドキのディテールとビビッドな色使いで「可愛さ」を強調している。Price(価格)は<Tシャツで1500円~2980円、スカートで2300円~3800円>だ。<1ヶ月の平均小遣いは中学生2502円、高校生5305円>とあるので「手の届く価格」である。また、記事には書いていないが、同ブランドはちょっとした小遣いでも買える、3桁の価格の小物も充実しているのが特徴である。Place(チャネル)は前述の通りSCを中心としている。
マーケティングのキモは「整合性」だ。すばらしい商品、卓越したプロモーションなど、どこか1カ所がうまくいっていても、その他の要素がかみ合っていなければスポイルされてしまう。まずは論より証拠。<ワールドは今年度、ピンクラテを新たに10店舗弱出店し、計40点弱まで店舗網を拡大>するという。近くのSCに視察に行ってみるといいだろう。もし、10代女子の子どもがいてねだられても、さほど懐は痛まないから安心だ。
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。