「ディズニーストア」ではナニを売っているのか?

2011.10.24

営業・マーケティング

「ディズニーストア」ではナニを売っているのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ディズニーのキャラクターグッズを販売するディズニーストアが全面改装されるという。その狙いは何だろうか?

  10月23日付日本経済新聞には、全面改装の計画として<まず仙台市内の店舗を改装し、12月上旬にアジア1号店として再オープンさせる>とあり、世界的には<現在、米国や欧州を中心に37店舗が再オープン><今後5~7年以内に全世界で300店舗の全面改装に乗り出す予定だ>という。
 ディズニーストアに関してWikipediaの記述を調べると、以下のようにある。
 1987年に米国のショッピングセンターに第1号店が開業し、<誕生して間もない頃は、ディズニーランドの商品の予備もしくは在庫がそのままの形で販売されていた。しかし、独自で商品を開発するようになると、テーマパークの敷地外で公式商品を購入することができるという点が消費者に受け、ディズニーの財政を支える柱の一つとなっていった>。つまり、屋台骨を再構築しようというのがこの計画なのだ。

 全面改装の狙いは極めて明確だ。記事にも<買い物客の滞在時間を伸ばすのが狙い>とある通りだ。だが、滞在時間が長かったからといって、それが収益につながるとは限らない。記事には<(米国・欧州など先行している37店舗では)従来の約2倍の来店客数を記録している>ともある。だが、「利益=売上-コスト」だ。改装費用というイニシャルコストだけではなく、イベントなどランニングコストもかさむ。また、「売上=来店客数×購入率×客単価」なので、まず、来店客を「買う気」にさせなければハナシにならない。

 どうやって「買う気」にさせるのか。
 改装した店舗は<「都市の中にある公演」をテーマとし店内にエンターテイメント要素を取り入れる>というのが目玉だ。<アニメを視聴できる巨大モニターや電子看板を設置するほか、キャラクターが登場する店内イベントも充実させる>とある。ミッキー、ミニー、ドナルド、グーフィーが手をつないで、テーマパークのショーさながらに登場しているスペイン・マドリード店の写真が記事に添えられている。つまり、「テーマパークとストアのシームレス化」、もしくは「ストアのミニテーマパーク化」が買う気にさせる切り札なのだ。

 日本においては1983年に東京ディズニーランド、2001年に東京ディズニーシーが開園したが、両テーマパークでも入場料や店内飲食以上に物品販売が大きな収益の柱になっていることは有名だ。つまり、本来物販を生業とするディズニーストアが、来店者に「経験価値」を提供して業績アップを図ろうとしているのが全面改装の狙いなのである。
 日本においてはディズニーストアを2002年4月から2010年3月まで東京ディズニーリゾート運営のオリエンタルランドが経営していたが、売り上げ不振のため経営をウォルト・ディズニー・インターナショナル・ジャパンに返上している。テーマパークと物販が分断されたライセンスでは相乗効果が出なかったということだろう。そこで、世界共通モデルとして、キャラクターの投入という必殺技に出たのだ。単なる「モノ売りの場」から、人々に「世界観の体験」という「コト」を提供して、そのなかで自然とモノを「買う理由」、「必然性」を発生させるという、テーマパークの方法論を踏襲したのだ。特に日本ではディズニー関連事業は成熟化していて、単純にディズニーグッズを手に入れることだけでは既にみんないくつも持っているし、魅力を感じない。故に、体験という附随機能とセットで提供することが欠かせないのだ。

 「モノではなくコトを売る」といわれて久しいが、成功事例は実はそんなに多くないように思う。実現のハードルは高いのだ。「夢と魔法」という「コト売りの専門家」が、どんな手腕を発揮してくれるのか期待したい。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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