「○○離れ」というフレーズも少し飽きてきたが、現代の消費者は「果物」からも離れていたらしい。10月25日付日本経済新聞の記事によれば、<日本人が1日に食べる果物の量は100グラム強とされ、30年前の6割に減っている>とある。掲載されているグラフを見ると、キレイな右肩下がりを描いている。その果物に若者が手を伸ばし始め、復権の兆しがあるという。
私たちはナゼ、果物を食べなくなってしまったのか。
記事にはJA総研の09年の調査結果が掲載されている。「皮をむいたりするのが面倒」54.3%、「手が汚れる・ベトベトする」22.9%など。皮をむくのではなく「種」も問題なようだ。<「種があると家族が面倒くさがって食べてくれない。ブドウは買うなら『種なし』」>ときっぱり言い切る主婦のコメントもある。私たちはどれだけモノグサになってしまったのか。しかし、栄養摂取だけを考えるなら、代替品がいくらでもある。果汁や野菜のジュースを飲めばいいし、サプリメントも昨今では様々な種類が売り出されている。
記事のタイトルは<果物離れに歯止め? 「皮ごと」「種なし」面倒なし 品種改良で種類豊富に 手伸ばす若い世代>とある。「皮ごと食べられるブドウ」「種のない柿」など、品種改良で豊富になって店頭に並ぶようになった果物が人気のようだ。ブドウの王様巨峰も種なしだ。今の時期だと他には皮ごと食べられるイチジクも人気だという。また、品種改良も進み、甘くて美味しいけれどあまりに大きな種にガッカリする「ビワ」も種なしが徐々に増えているという。
手間なし果物は売れ行きも好調だ。伊勢丹新宿本店では、9月の売上が前年対比2桁増し。首都圏のスーパー、オリンピックでは種なしブドウが種ありの倍の売れ行きだという。
品種改良が美味しさの向上だけでなく、昨今の消費者ニーズに対応するようになった「手間なし果物」には今後、さらなる可能性が考えられる。最も果物から離れていると思われる単身世帯の取り込みもしやすくなるからだ。
記事には<「一人暮らしをしているから、食べるのはぱっと食べられるバナナぐらい」(26歳の会社員女性)>とのコメントがある。コンビニにも個包装、少量パックの果物も置かれるようになった。コンビニは多少価格が高くても売れるし、何より「果物離れ」したターゲットの目に触れ、認知~興味を得ることが可能なチャネルだ。マーケティングミックス(4P)の整合性の観点からも期は熟しているといえるだろう。果物復権のチャンスである。
マーケティングの定石としては、ターゲットを考えて、その「購買決定要因(KBF=Key Buying Factor)」のをいかに充足するか検討する。だが、果物の衰退と復活の事例を見ると、同時に「購買棄却理由」を洗い出し、その対処をすることも欠かせないことがわかる。
「美味しい果物を提供しよう」は、「売り手の発想」だ。「美味しい」は確かにKBFになるが、それ以前に消費者・買い手には「面倒」という棄却理由があり、手が伸びていなかったのである。愚直に顧客ニーズとニーズギャップに目を向け、顧客の言葉に耳を傾けることの重要性がわかる事例である。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。