いつまでも秋らしい涼しさがやってこず、クリーニングをいつ出したものか思案に暮れている日々が続くが、今日あたりから秋も本格化するようだ。そんな中で、この秋の装いを考えてみたい。
個人的にここのところ、興味も向くままファッション関連のネタを追っているが、その中で確実に「潮目の変化」を感じるようになった。それはモードの先端でのハナシではない。いわゆるE.M.ロジャースの普及論でいうところの、最先端である「イノベーター」層の動きではなく、新たなイノベーションを評価し取り入れる「アーリーアダプター」層。そして、その動きに倣って行動を起こす「アーリーマジョリティー」層へと変化が伝播しようとしているように思うのだ。
ユニクロが世に送り出す今期のヒートテックは総計1億枚を目標としている。高機能な衣料を低価格で提供する。それはいいことだ。だが、それは「ファッション」ではない。「部品の提供」だ。
H&Mのレディース向けのブラウスの典型的なシルエットは、襟元のV字のカットで、袖は七分。先端はボタンではなく伸縮性を持たせている。シルエットはタイトではなく、ゆったり目だ。誰もがそれなりにカッコよく着られるデザイン。実は1つのパターンを素材を変えていくつか展開していることに気がついている人は少ない。
それでもユニクロもファストファッションも人気が続いている。安価に購入し、自分なりのコーディネートをする技術が消費者に備わってきたともいえるが、一方、そこまでファッションにこだわらない層を生み出しているともいえるだろう。
昨今、気になる動きとは、「画一性からの脱却」だ。いわゆる「一点もの」が脚光を浴び始めているように思える。
私事ながら、有楽町阪急メンズ館で思わず一目惚れして購入したのは、デザイナー「ジュン ヘイガン」が2008年から立ち上げたリメイクを中心とした一点物のブランド「HAGAN」のベストだった。ベスト1枚で2プライススーツ2着が買える値段。しかし、それを気にしたら買い物はできない。
2011年11月7日付日経MJのコラム「モード最前線」で紹介された「Koko and Yosuke」。デザイナー二人の間にある商品が目を惹く。<白いカシミアのカーディガンをめくると花やフルーツの絵柄を転写プリントした鮮やかな裏地がのぞく。その絵柄を切り取り綿を詰め、数十年前に作られたフランス製のスパンコールを付けて大小様々なアップリケに仕立てた。それをキャンバスに絵を描くようにカーディガンの表面に縫い付けた>とある。当然一点ものだ。
1点ものを購入するのはまだ、イノベーター層にすぎないかもしれない。セレクトショップ業態が好調である。メーカーの画一性にとらわれず、顧客に似合うコーディネートを提案してくれるというコトから人気を呼んでいる。そこでも1点ものが扱われ始めている。
モノゴトは一方に極端に振れると、その反動が確実に出る。画一的に工業化された衣料の反対側で、ハンドメイドの一点ものに火がつき始めている。イノベーターが食いついた。現在、セレクトショップ通いをしているアーリーアダプターにまでその動きが伝播すれば、面白いことになるだろう。
ユニクロは海外外出に大きく舵を切った。縮む国内に留まっては成長の絵が描けないからだ。一方で、規模を追わず、縮む市場の中で小さく同好の士が楽しむブランドが台頭を始めている。そんな縮図が見える秋の装いである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。