「カフェ業界」に異変が起きている。すっかり市場に根ざしたセルフサービススタイルから、旧来の喫茶店が提供していたオーダーテイク~配膳・片付けまでを提供する「フルサービス回帰」の傾向だ。いったいナニが起きているのだろう。
カフェ業界・東海圏の覇者といえば「コメダ珈琲店」だ。その魅力をひとことで言うなら、「ゆるさ」だろう。ログハウス調のゆったりとした店内。雑誌や新聞が自由に読めるように多数用意されている。分煙がなされている点を除けば、昔ながらの喫茶店の雰囲気ほぼ踏襲しているといっていいだろう。フランチャイズ展開であるが、マニュアルでガチガチに縛った応対ではなく、これまた「ゆるい」。それがまたいい。店内でPCを使って仕事をしている人はほとんど見かけられない。皆、くつろぎ、ゆるく過ごしている。
出店ペースは決してゆるくない。2011年11月10日付日本経済新聞。<名古屋の「コメダ珈琲店」 店舗数、5年で倍増 1000店規模 関東・関西に重点>という記事が掲載された。現在約420店。2012年2月期の出店計画は50店。来期は70~80店、14年2月期以降は毎期100店ペースだという。
1996年、銀座松屋デパートの裏の小さな2階建て店舗で日本での展開をスタートして以来、進撃の手を緩めないスターバックスの昨今の目玉はプレミアムコーヒー「リザーブ」。今年2月に東京・京都の2店舗でスタートした「特別な豆を特別なコーヒーマシンで淹れて、特別なカウンター席で提供する」というサービスは、11月9日付の日経MJに記事よれば現在は提供店舗を約90店に増やしたという。記事には<リザーブにこだわった背景には、ここ数年、少量ながら個性的な豆を扱う個人販売店などが増えてきたことに対する危機感がある>としているが、リザーブがこだわっているのは「豆」だけではない。その豆の由来や、エスプレッソの抽出方法などに関するコーヒーの知識をバリスタがカウンターに腰掛けた顧客に説明するという洒脱な会話も提供価値の一部だ。
スターバックスコーヒージャパンが新業態店への進出をメディアに明かした。11月12日の日本経済新聞、経済面の社長インタビューコラム「人こと」に、同社の関根CEOが登場し、<来年、個人が経営するような喫茶店のような新業態の実験を始める。主婦らが自宅近くで従業員と話をしながら結った知と滞在できる店を想定している>と語っている。
スターバックスの対抗馬、タリーズも黙ってはいない。11月9日付の日経MJ記事。<タリーズ、接客強化の店舗 「コンシェルジュ」が注文取り・配膳 都内に実験店 集客強化狙う>とあり、記事写真のキャプションには「コンシェルジュが客席スペースに常駐、客の要望に応える」とある。その意図は<業界でフルサービス式のチェーンが好調ななか、同社も客がくつろげる店作りで客数増を狙う>とある。
スターバックスに代表される「シアトルスタイル系」コーヒーショップは、消費者のニーズギャップをとらえて発展した。当時のカフェ業界の覇者はドトールコーヒーやカフェベローチェといったセルフサービス店だ。コーヒー1杯を500円~600円程度で提供する、個人経営やフランチャイズによる従来型の「喫茶店」に対し、セルフサービスカフェはコーヒー1杯150円~180円以下の低価格が主流。その価格は狭い空間に座席数を少しでも多く確保することと、客の滞在時間が短く回転が早いことで成立していた。そこに「ゆとり」はなく、ビジネスパーソンのちょっとした時間調整や休憩、ニコチン補給という意味合いが強かった。一方、スターバックスは北米ではスペシャリティコーヒーストアとしての地位を確立。最高級コーヒー豆を使用し、マニュアル化によりコーヒーの味をはじめとした品質の徹底管理。高級ソファや絵画などを使用したファッショナブルな店内の雰囲気も商品として展開していた。つまり、日本市場においては美味しいコーヒーとオシャレな空間を提供できるスターバックスが、300円~500円台の価格で展開すれば旧来の喫茶店やセルフサービスカフェに不満を持つ非喫煙者や女性、若年層を取り込める環境であったのだ。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。