2011年11月21日付日経MJ記事に「ジーバ、地域電器店向け蓄電池発売」という記事が掲載された。電気製品の企画・開発をするジーバ(東京・港)が発売した製品に関する内容だ。タイトルに「小型・低価格で量販店と一線」とある。その戦略の要諦はどこにあるのだろうか?
製品は容量150ワット時と小さいが、その分価格も49,800円と手軽に手を出せる設定である。そして、販路は同社が東京都電気商業組合(東京・文京)と組んで開発したこともあり、地域の家電販売店に絞っており、大手家電量販店では発売しない。地域密着型の家電店チャネルのいいところは、設置・メンテナンス・修理などを通して家庭に深く入り込んでいるところだ。
大手は店舗での販売→業者による配送・設置→メーカー(関連会社)による修理・メンテナンス対応とバリューチェーン(VC)の担い手が分断されている。多くの地域家電店は、店主・社員が顧客の家におもむき自ら対応する。販売・プロモーションも、いわゆる「人的販売」として行うが、蓄電池に関しては「高額・大容量」の製品には関心のない一般消費者に提案・説得するというプッシュセールスがかけられる。こうして考えると、大手との展開はターゲットと4Pの組み方が根本的に異なることがわかる。
記事によれば家電量販店が震災後にこぞって販売を始めた蓄電池は、価格は15万~180万円程度と高額で、ジーバの商品の150倍もの容量を持って平時は太陽光発電などと組み合わせてエコに家庭内の消費電力の一部をまかなうという存在として訴求されている。
対して「小型・低価格蓄電池」はがもっと明確にポジショニングが絞り込まれている。「災害時の最低限の電源確保」と「アウトドアでも使える」と、大型据え置き型より気軽・身近で小回りのきく商品としてのポジションだ。
そんな商品の主たるターゲットは誰だろうか。それは何より、「地域電器店」が抱えている顧客だ。家電製品への関心やリテラシーは高くはなく、コストオリエンテッドでもない、電器店とリレーションのできているいわゆる「いいお客さん」である。その多くは高齢世帯でもある。
「小金持ち高齢者」をターゲットと考えれば、家電量販店はターゲットにリーチすることができない。「エコ」にまでなるというような、高性能高額蓄電池はターゲットのニーズに合致していない。プロモーションをしようにも、興味がないのでチラシは見ないし、店頭にも来ない。ターゲットと4Pが整合していない。突き詰めれば、ジーバの展開は商品とターゲットを絞った「差別化集中戦略」だといえるだろう。
ターゲットを絞り、チャネルの特性を考えると具体的な訴求方法が明確になる。単に災害時の灯火確保なら電池で十分なため使い方提案をして、機能ではなく「安心感」という情緒的価値を売ることが重要だ。設置・説明などで顧客が安心を実感したら、家電機器毎や部屋毎に追加販売(アップセリング)をしたり、LEDライト、小型テレビ等の低電力使用量の関連商品販売(クロスセリング)の提案をしたりという機会が得られる。また、顧客は「お得意様」である高齢者が多いため、「安心感」を獲得できれば、子供世帯へのギフト需要の創出という顧客紹介のチャンスも取り込むことが可能となる。
同記事は<年間の販売目標は3,000台。顧客を開拓しきれていない大手家電量販店を尻目に、蓄電池の需要を掘り起こせるか。正否は地域店の強みであるきめ細かな顧客対応にある>と締めくくっている。だが、前掲の通り基本的なフレームワークやセオリーで検証する限り、同社と地域販売店の前には大手家電店が取り込めていない潜在ニーズのブルーオーシャンが広がっているように思われる。一歩一歩、着実に顧客とのリレーションを強固にしながら展開していくことが肝要だろう。
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。