「土地を自由に使って建物を作れ」といわれた時、広い土地と狭小な土地のどちらがユニークに仕上がるだろうか。要するに、制約条件をどれだけ活かせるかが問題なのだ。
筆者は現在、地域活性化のプロジェクトに参画している。どうやらその世界では結構有名なようなのだが、含蓄のある話を聞いたので紹介したい。
高知県の山間に馬路(うまじ)村というところがある。空港からローカル線と山間の道を辿った先にある。東京からは優に5時間を超える。時間的には海外、例えば上海よりも遠いのだ。
そこは日本有数の杉の産地である。つまり、本当に山の中。
その村が有名なのは、今は杉の産出ではない。「柚子」である。柚子の加工品。農協が行っている通信販売での売上が年間33億を超えるという。人口僅か1,000人強の村がである。
馬路村を有名にしたのは、無農薬栽培の柚子の各種加工品の通信販売。しかし、それは初めから狙ってのことではない。様々な制約条件をクリアしていった結果としてそこに辿り着いたのだ。
ご多分にもれず、馬路村も高齢化問題を抱えていた。そして、杉以外には柚子の栽培を行っていたが、畑は急峻な山肌にある。農薬をかけようとしても老人には無理な話だ。従って、無農薬栽培を選択することになる。
無農薬で、しかも手がかけられない柚子の果実。当然、不揃いで見た目がよくない。そのまま販売しても低単価となる。それ故、搾汁したり、煮たり、乾燥させたりと様々な加工を施すことになる。結果として、玉で出荷するより加工度が高いため、高単価・高利益となる。
さらに、当初は全国の物産展などに持ち込み販売していたが、瓶詰めの搾汁液は重い。出荷の問題もさることながら、購入客から宅配を依頼されることが多くなった。それに応えるため、宅配・通信販売を開始した。
村で作った各種の柚子加工品の人気が高まった。しかし、生産をすると柚子のいらない部分が廃棄物となる。狭い村のこと、その始末に困る。何よりもったいない。そして、数を出さないように様々な生産物を考案し、さらにバラエティー豊かな品揃えとなる。
更なる人気の高まりに、一目、馬路村を見ようと見学者が全国各地から集まってくるようになる。しかし、これといって見せるものがない。そこで、生産工場や受注現場などを見学スポットとして整備した。また、使われなくなっていた製材工場や鉄道跡も整備し、ちょっとした見学コースを造った。さらに注目が集まった。
上記のように、馬路村は一連の取り組みを狙ってやったわけではない。村が抱える制約条件の解決に努めながら、愚直に市場の要望に耳を傾けていった結果だ。
今、日本中に地域格差が満ちあふれている。そして、地方は「あれもない、これもない」と声を大にする。中央は「これ幸い」と、いわゆる道路などのインフラやハコモノを提供する。しかし、そんなものは何も生み出さない。いや、むしろ維持費の負担が増すだけだ。全国で問題になっている、整備不良の橋梁がその実態を如実に現わしている。
地方の活性化だけではない。ビジネス全般のこととして考えても、とかく制約条件に縛られ、その対応・解決を考える前に思考停止に陥っていることはないだろうか。
地方の小さな村の取り組みから学ぶことは大きい。
参考:馬路村WEBサイト http://www.inforyoma.or.jp/umaji/
馬路村農協 http://www.yuzu.or.jp/
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2008.03.28
2009.10.08
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。