髪は美容サロンで切るけど、時々、理髪店でヒゲを剃ってもらう。ヒゲは毎朝自分で剃っているけど、人にやってもらうと気持ちがいいから。それが理由。気持ちがシャキッとして、少し気合いも入る。
ちょっと豆知識だけど、理美容業界の基本的なサービス料金(技術料)は稼働時間に比例していて、標準的には10分で1,000円。なので、実はQBハウスとか格安床屋は業界相場と合っているのだ。
私が時々ヒゲを剃ってもらうのは、15分で1,500円の店と、25分で2,500円の店。どちらを選ぶかは、混み具合を見て。あ、少しウソをつきました。懐具合も関係します・・・。
2,500円の店は「理髪職人」然としたオヤジが剃ってくれる。アゴの辺りのクセヒゲも皮膚をあっちに引っ張り、こっちに引っ張りして徹底的に丁寧にやってくれる。そしていつも終わるとひと言。「お客さんのヒゲは大変だよ」。
1,500円の店はイマドキの髪型をした若いお兄さんか、かわいいお姉さんが剃ってくれる。こちらはとにかく剃るのが早い早い。切れたらどうしよう。皮がむけたらどうしようと思うような、ちょっとしたスリルも味わえる。ナゼ、手早くやるのかと言えば、15分をフルにヒゲ剃りに使うのではなく、まゆ毛の手入れや鼻毛、耳毛(←ジジイ化しているのか、最近少しあります)切りや、少し崩れた髪の再セットまでやってくれる。その時間を稼いでいるのだと思う。
理容室は男性も多く美容サロンに流れてしまい、結果的に激しい過当競争の時代に入っている。大倒産時代と言っていい。そんな厳しい環境のなか、法令でシェービングができない美容サロンに対してヒゲ剃りはキラーコンテンツなのだ。そして、「ヒゲ剃りのみ歓迎」は各店で掲げている。理容業界に入るけど、QBハウスはヒゲ剃りやらないし。
「ヒゲ剃り」の中核的価値は、「ヒゲをキレイさっぱりなくすこと」。
それを実現する実体価値は、「確かな技術」。
中核的価値の実現と直接関係のない付随機能が、「ヒゲ剃り関連の付加サービス・フルサービス」。
両店は何をどのように実現しようとしているのか。
さて、みなさんだったら2,500円の店と1,500円のどちらを選びますか?
私個人としては、2500円の店をメインに、「眉毛ケア」などのニーズがある時のみ1500円安い店に行くことにしている。
1500円店は、付随機能までのフルサービスが魅力。特に理容店というプロダクトライフサイクルが成熟~衰退期の商品では、消費者から求められる価値は付随機能に移行するのが原則だ。その意味では正しい戦略を取っていると言える。
しかしながら、中核価値において顧客に不安(スリル)を与えるのはイタダケナイ。実体価値である「確かな技術」に不信感を持たれることになる。
「価格」と「差別化」という、本来比例関係(バリューライン)にある 要素を同時に実現するのは容易ではない。故に、「コストリーダー」は、差別化要素や品質はそのままで、まずは価格を引き下げる。大量に集客して、隙間なく高い回転率で規模の経済(固定費率の低減)と、経験効果(変動比率、人件費率の低減)を図る。それがコストリーダーの基本戦略。QBハウスはこの典型である。
対して、差別化戦略は価格はそのままで、差別化要素を強化する。
この例では、1500円店は「二兎を追う」状態になっているといえるだろう。
本来なら、「2500円25分でフルサービス」の差別化戦略か、「1500円でヒゲ剃りのみの安価で丁寧な対応」というコストリーダーの戦略に徹するべきだといえるだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。