いくつかの業界を例に、「価格」と「価値」そして、「業界相場」というものを考えてみよう。そこから見えることは・・・
ちょっとイメージが伝わりにくいかもしれないが、「特殊技能を持った無名のスタッフが提供する、原材料比率が低いサービス業」という業種の大きな括りを定義してみる。具体的にいえば、理美容、ネイルアート、マッサージ、スポーツトレーナー等々だ。何らかのサービス提供の場(ハコ)は必要で一定の固定費は発生するが、サービスに要する原材料の費用は総じてゼロか低い。
では、それらの価格の相場はいくらかといえば、概ね「10分1000円」だ。最もわかりやすい例でいえば、低価格理髪チェーンとして有名な「QBハウス」。カットのみ。洗髪、ヒゲ剃り、セットなしで10分1000円。だが、同チェーンが理容業界で価格破壊を起こしているかといえば、実はそうではない。フルサービスの旧来の理髪店もサービス提供時間が40分程度で価格は4000円程度のはずだ。つまり、10分1000円。美容室もカットで60分6000円。パーマで90分9000円。10分1000円換算になるだろう。
理美容だけではない。ネイルアートもツメの形を整え、甘皮処理をし、表面を磨くという最も基本のコースだと40分4000円。マッサージは大手チェーン「てもみん」の価格がスタンダードとなってか、30分なら3000円、60分なら6000円と各コースの10分単価は1000円が程度だ。マンツーマンのスポーツトレーナーは60分6000円が多い。
標準的な内容に対して業界相場でサービス提供をすることを、「中価値戦略」という。もっと高い価格を設定したい場合には、何らかの価値を上げ、「プレミアム戦略」を取る必要がある。美容業界なら、いわゆる「カリスマ美容師」的な人が担当するなら、10分1000円の相場を上回るプレミアム価格となる。
一方、業界の相場価格である「中価値」を下回る価格で、サービスの質も下げて提供することを「エコノミー戦略」という。しかし、比較的割安な価格で業界相場が「中価値」に集中している場合、その戦略は顧客が魅力を感じないため成立しがたい。
では、エコノミー戦略→中価値戦略→プレミアム戦略と、価格と価値が正比例した関係、「バリューライン」から飛び出るにはどうしたらいいのか。最もやりやすいのが、価値はそのままで、価格を下げて「グッドバリュー戦略」に転換することだ。価格を下げる余地は固定費を圧縮することである。イメージとしては個人経営の理美容店。自宅の1階をサロンとしている場合など、元々が自社物件であるため、価格の固定比の組み込みを下げればサービス提供価格を引き下げられる。実際にQBハウスの近隣にある個人経営理容室は「カット・シャンプー・セットで1500円」などというサービスを提供している店も多い。かかる時間は15分を超えているが、固定比率の引き下げによって店としての損益分岐点を下げているため成立している。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。