店内に椅子やベンチが異様にたくさん設置してある百貨店といえば・・・答えは、京王百貨店新宿店。ターゲットを高齢者に定めた施策の一環だ。その京王百貨店新宿店が大変身しようとしているという。
同店のターゲットの絞り込みとその展開は明確でスピーディーだった。2004年11月に創業40周年を迎える新宿店は、高齢社会に対応した改装や売場づくりを打ち出し、新宿店の5・7・8階の3フロアを高齢社会や中高年層の生活感変化などに対応した売り場に改装。商品構成を変更し、フロア構成も見直した。3フロアにわたる大規模改装は1989年、つまりバブル期以来の大改装だった。そして、新宿店は改装によって、中高年顧客を主要ターゲットとしてきたポジショニングを一段と進化させ、競合環境の中でひときわ目立つ存在となったのだ。
顧客は歳を取る。いくら高齢者ターゲットで突出した存在となっても、徐々に寄る年波で来店回数を減らし、逝去する顧客も出てくる。囲い込み自体に意味がなくなる。そこで新方針を打ち出したのだ。
1月11日の日経MJインタビューコーナー「消費見所カン所」で、同社の林社長が「ポスト団塊世代をつかむ」というタイトルで語っている。「現在の団塊世代より上のシニア層から、団塊世代より若い消費者も開拓し顧客層の拡大を目指す」とある。団塊世代より下の層には、いわゆるバブル層が控えている。圧倒的なボリュームを持っていた団塊世代より客数は減るも客単価は期待できるだろう。これは、同社長が着任して以来の改革の柱だ。昨年春からの改装も進んでいる。
業界筋の話では、林社長は「(店内の)平場をやめる」という方針も明言しているようだ。平場といえば、百貨店のバイヤー、マーチャンダイザーが独自に編集を行う「顔」のようなものだ。対して、テナントはそのテナントのブランドのファンを集める集客装置のようなものである。平場で稼ぐことと、テナント収入で稼ぐことは似て非なるモノだ。後者の代表といえば昨年有楽町店をオープンさせ話題となった「ルミネ」である。より魅力があり、独自性のあるテナントを集め、鮮度を維持するために随時入れ替えも行っていく。そうして「館」としての価値を高めていくのである。京王百貨店新宿店はそうした業態に転換するともいえる大変身を企図しているのである。
なぜ、大胆ともいえる変身を行うのか。それは、ターゲットの変更と整合性を取るためだ。バブル世代を含むポスト団塊にとって、百貨店の平場は魅力的に思えない。ルミネ同様、テナントの魅力で成長を遂げた「丸井」でファッションをおぼえた人も多い。その意味からすると、京王百貨店新宿店の今回の変身は、ある意味で「百貨店」から「テナントビル」への業態転換に近い。
顧客の環境は変化し、顧客も入れ替わっていく。それに合わせて自社のポジショニングと展開施策を整合させていくことは、生き残りに欠かせない。同社の挑戦は業界の、そして他業種にとっても、これからの人口動態の変化にどう対応していくのかという普遍的なテーマに対する事例として要注目である。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。