マーケティングや環境問題のキーワードとして、昨今「自分事化」が言われている。3月26日付の日経MJコラム「八塩圭子ゼミ」も「『自分事化』の重要性」というタイトルであった。そのポイントはなんだろうか。
記事では「(差別化困難な時代において)『これはまさしく自分のための商品、サービスだ』と消費者に認識して貰うこと、つまり『自分事化』が一番のマーケティング課題となる」とある。
同氏の解釈で秀逸なのは、記事中でブランド論の大家、デビット・A・アーカーが2004年から著書に記している“ブランド・レレバンス(relevance)”という言葉を引用していることだ。当初「関連性」と訳されたが、恩蔵直人先生が近著で「自分事化」の訳語を充てた。
実は“relevance”という概念を早期にマーケティングに取り入れたのは、ダイレクトマーケティングの父・タイム誌が選んだ「20世紀の3台広告人」であるレスター・ワンダーマンである。
彼は、「“CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)”」という概念の“R”の文字をrelation=関係性ではなく、relevanceとすべきであると自らの概念を置き換えた。ナゼなら、2000年当時、CRMの概念が巷に満ちあふれ、企業からの消費者(顧客)に対する押しつけにも近い関係性が蔓延したからだ。
ワンダーマンは言う。「自分は毎日コルゲートの歯磨き粉で歯を磨いている。しかし、『コルゲートと、今、自分は関係性を持っている』と感じることはない。しかし、その製品を使い続けている理由は、『自分にピッタリだ』と思うからだ」(ワンダーマンの売る広告・翔泳社、及び講演会より)。
「自分事化」というキーワードは確かに判りやすい。しかし、筆者はまだ、そこに企業と消費者の対等感を見いだせない。「自分事化」に続く言葉は「させる」ではないか。(消費者に『自分事化させる』)。それよりも、「自分にピッタリだと思ってもらう」の方がしっくりこないだろうか。環境問題や社会貢献にしてもそうだ。「自分のできることとして、これがピッタリだ」と思って自発的に行動してもらうという方が、危機感醸成や押しつけ的な問題意識の喚起にならないだろう。
所詮、人は「他人事」では動かない。その意味では「自分事化」は重要だ。だが、さらにそれが「自分にピッタリ」と思ってもらうことはさらに重要だろう。そこに、「モノゴトに対する愛着」が発生するからだ。故に、「自分事化」→「ピッタリ感」という流れを以下に形成するかがカギであると思う。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。