3月27日新発売のロッテのガム「ZEUS(ゼウス)」。刺激の強いこの味に行き着くためのロッテの道のりを思うと涙が出る。
2004年を境に、ガムの消費量は右肩下がりになっている。(日本チューイングガム協会調べ)。ロッテはガム市場の6割のシェアを握るリーダー企業。最も影響が大きい。さらに・・・
顧客咀嚼力が弱まり、噛むという行為を嫌う。競合としては、グミやタブレットなど代替品が多数存在する。ガムの身の置き場はもはや存在しない。
そこで、ロッテは一計を案じた。顧客は「柔らかな噛み心地」を望んでいる。故に、「噛むとフニャン♪」の「Fit's(フィッツ)」を作った。大ヒットした。・・・とここまでは成功物語第一幕。
せっかくのヒットを一過性のものにしたくはない。
若者がもう一つ苦手にしているのは、「刺激の強いミント」だ。そのため、フィッツはフルーツ味をメインに押し出した。「ミックスベリー味」は生産が追いつかないほどの人気になった。だが、「ガムはミント味が本道。本道ほど習慣化しやすく、その味こそが優良顧客を育てる」という信念がロッテにはあった。だからこそ、フィッツの3種の味のうち、1つは弱めのミント味にしておいたのである。
フィッツの第二幕は密かに上がった。噛み心地を密かに強くしたのだ。つまり、ガムベースの比率アップ。「噛む」という行為に慣れさせようと画策したのである。
第三幕も比較的地味な場面転換だ。少し強めのミントの味を投入したのである。
そして、第4幕は冒険だった。ターゲット年齢を30題まで広げ、味もミント系をメインとし、噛み心地が30分持続するフィッツブランドの派生商品「フィッツLINK」を投入したのである。はっきり言えば、それは本来、同一ブランドで上市すべきものではない。だが、若者が慣れてきたフィッツブランドで投入することによって、10~20代の若者にも手を出させたかったのである。
新商品はヒットした。しかし、二の矢、三の矢が用意されていた。噛み心地の持続時間を徐々に延長したのである。それは、ロッテによる若年層に対する「咀嚼教育」とでもいうものである。
そして、ついに、フィッツブランドでない新商品を上市した。それが、「ZEUS(ゼウス)」だ。
ターゲットは「咀嚼」には十分慣れた。次は「刺激」だ。そこで、舌にピリピリくる「ティングリング成分」を配合したソフトキャンディーをガムで挟み、最初に刺激が伝わり、あとからミント味が広がるという商品に仕立てたのだ。それは、「クセになる味」を狙っているのだ。
ガムの復権を狙ったロッテの深謀遠慮が今回の商品には隠されているのである。
急いては事をし損じる。事態打開を一気に狙いたくなるのは心情であるが、このロッテの我慢強いターゲットに対する働きかけと、段階的な商品開発からは学ぶべきところが多いだろう。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。