バンダイが育成型ロボット玩具「スマートペット」を発表した。iPhoneやiPod(touch)と胴体を合体させて遊ぶ。スマートはどうやら、「スマートフォンをペットにする」と「スマート=賢いペット」という意味で使われているようだ。さて、この商品、どのようなマーケティング戦略が組まれているのだろうか。
どのようなターゲットにどう売ろうとしているのかを考えたい。注目したいのが販売目標数字である。なんと、メディアの報道によれば20万個だという。
新型自動車を街で「よく見かけるな」と思うようになる累計販売台数は10万台を超えたあたりからだという。(ちなみに、日本国内での「プリウス」の累計販売台数は、2011年8月末までに約102万台と、100万台を突破したとトヨタが発表した)。
だとすれば、20万台はよく見かけるという閾値の倍なので、あちらこちらでスマートペットを見かけるようになるのだろうか。今となっては懐かしい、ソニーの犬型ロボット「AIBO」を連れ歩いている人がかつていたが、同商品は初期型で約28万円。第2型で約18万円と肥饒に高価だった。だが、スマートペットは6,500円だという。頭脳であるiPhoneやiPod(touch)は付いていないにしても、桁違いの安価さだ。だとすれば、大ヒットして、あちこちで見かけるようになるのも現実的かもしれない。
ターゲットは誰か。iPhoneのユーザーを元に考えてみよう。
iPhoneの国内普及台数は約800万台だという。だとすれば、20万台は2.5%にあたる。
2.5%。この数字に見覚えのある人も多いだろう。イノベーション普及論で有名な、E.M.ロジャースのいう、「イノベーター」が市場に存在する比率だ。それに続く「アーリーアダプター」が13.5%。そこから一気に普及に火が付き、「アーリーマジョリティー」へ伝播するという説だ。しかし、その手前の16%にはジェフリー・ムーアが提唱した「キャズム(溝)」があり、そこを超えることが特にハイテク製品においては大ヒットに向けた試練となるのである。
目標20万台というと、前述の通りiPhoneユーザー中のイノベーターとピッタリ同じだが、全員が買うわけではないので、iPod touchユーザーも取り込まなければならない。また、アーリーアダプター層への働きかけも必要だ。
イノベーターだけを狙うのであれば、特に大きなアクションをせずとも新商品に飛びついてくれるのを待てばいい。広報・PRをキッチリしていれば、その情報を目ざとくキャッチアップするのがイノベーターだからだ。
だが、3月28日付の日経MJの記事によれば、カッチリしたマーケティングミックスを展開するようだ。
20万台の目標達成のために、「黒木メイサさんをテレビCMに起用し、黒木さんの新曲プロモーションビデオにも登場させる」と記事にある。プロモーションにコストをしっかり投入するのだ。
予定価格の6500円は、前述のソニーの「AIBO」は最終版に近い普及型でも7万円台だったことを考えると、(頭の部分は付いてないにしても)かなりの安価設定であることがわかる。「ペネトレーションプライシング(市場浸透価格設定)」だ。価格設定のポリシーは、いかに早く市場のシェアを奪取すること。恐らく、ソニーのAIBOが本格的なロボット技術の粋を結集して作られた(その技術は後にソニーからトヨタ自動車に売却されている)ものであったのに対し、あくまでスマートペットは玩具なのだろう。他メーカーが模倣しようとすればできる。故に、低価格でいち早くシェアを取りに来ているのだ。そして、「キャズム超え」を20万台の販売目標をバネに達成を目指し、次なる目標は規模の経済を活かして生産原価を低減し、値下げしてより広く普及させることに置いているのだろう。アーリーマジョリティー層の獲得に走ることが予想される。
商品、プロモ、価格というマーケティングの4Pの要素の3つが「普及」を目指して組まれているとなると、残る1つ、販売チャネルも全方位で展開されると考えられる。オモチャとしてだけではなく、スマホ売り場、PC(iPad)売り場、音楽プレイヤー売り場などあちこちで見かけることになるだろう。
バンダイの20万台に向けたチャレンジは、どこまでインテグレート(統合)されたマーケティングプランをスマートに展開するかにかかっているといえるだろう。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。