10分1,000円カットのQBハウスの新展開が4月2日の日経MJで報じられていた。だが、同店はカット以外、洗髪もセットもしないのが特徴である。果たしてその狙いはどこにあるのだろうか。
記事のタイトルは「美容機器をお試し QBハウス パナソニックに協力」。対象となるのは銀座本店で、6席あるカットスペースのうち1席を期間限定で頭皮エステの専用コーナーとする。また、サービスを告知するため、店舗自体をラッピング広告で目立たせ効果アップを図るという。
商売の基本は売上=客数×客単価×回転数。故に、1ブースがつぶれるということは、おそらく、1,000円×60分(6回転)×営業時間(12時間として)=72,000円/日はメーカー持ちだろう。しかし、それだけではカットブースの数が減り頭皮エステに関心のない客の待ち時間が増えるという問題を解消できない。そのため、待ち客全員に、カラーリング剤などの頭髪関連商品を無料配布するというサービスも同時に展開している。もちろん、メーカーとの共同販促である。QBハウスの戦略は、メーカーとの関連商品販促の本格化に移行を目指しているのだ。
「戦略」という言葉をサラリと使ってしまったが、そもそも「戦略」とは、「戦略=目的+実現手段」である。
QBハウスの目的は、同種の1,000円カットの競合店が続出しているので差別化を図ることだ。但し、差別化といっても、同店の基本ポジションは「10分1,000円カットのみ。洗髪・セット・ひげそり無し」である。基本オペレーションに変更を加えれば、「2,000円でシャンプーとセット付き」という美容業界の低価格サロンと競合することになってしまう。
そこで、「他人のふんどしで相撲を取る作戦」が「実現手段」となるわけだ。記事によれば15年3月をめどにメーカーとの共同販促を年間30件に増やすということだ。
QBハウスの「他人のふんどしで相撲を取る作戦」が最終的に目指すものは、同種の模倣店、亜流店との差別化を図ることだ。「最低価格・時間で必要なだけの理容サービスを提供してくれる店」という従来のポジションにくわえて、「行けば何かお得がある店」というポジションに拡張することにあると思われる。
「ポジショニングの変更、及び拡張はブランドの命がけのジャンプである」とコトラーは記している。QBハウスの「安い・早い」にくわえた「いろいろお得」というポジションへの拡張は、来店客が少しでも「煩わしい」と思ったり、従来の「早さ」を阻害していると思ったりしないことがキモなのである。「安くて、早くて、お得」に期待したい。
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。