5月9日付日経MJのコラム「ヒットのヒミツ」に、資生堂が昨年9月に発売したコラーゲン飲料「ベネフィーク コラーゲンロイヤルリッチ」が取り上げられていた。
昨年9月の発売以来、<約半年間の出荷数は当初計画の1.5倍>という景気のいい数字が踊る。そのヒットのヒミツをもう少し深掘りしてみよう。
■チャネルと顧客の特性
「ベネフィーク」ブランドは1996年に発売された、資生堂初の「化粧品店専門ブランド」である。百貨店にもドラッグストアにも置いていない。家の近所の独立店舗だけでの販売だ。記事では計画比1.5倍の要因を、「化粧品専門店でのみ販売する信頼感」としている。独立系専門店は独自に顧客を抱えている。その顧客は店のオススメを受容しやすいという特性がある。リレーションシップが構築されている。
化粧品購入者をセグメントして考えてみよう。価格で勝負するドラッグストアではなく、専門店を選択しているということは、価格重視←→ロイヤルティー重視という軸において、ロイヤルティー重視の顧客である。では、何に対するロイヤルかといえば、ロイヤルティーを店舗←→ブランドという軸で考えれば、「店舗ロイヤル」であるという特性が考えられる。
■店舗販売と商品の特性との整合性
なぜ、ブランドではなく、店舗ロイヤルな顧客が購入するのか。この商品は便益がしっかりしていることが特徴だ。他のコラーゲン飲料に比べ、多数配合されている。そんな商品を店舗ではまず試飲という「体験」をさせる。商品の便益がはっきりしていて、顧客に試飲をさせるという流れは、店舗にとって「オススメしやすい」という代えがたいメリットが出る。さらに、コラーゲン飲料多々あれど、専門店で販売する、化粧品ブランドの商品は他にない。「ここでしか買えない」ということが、顧客の買う理由(KBF=Key Buying Factor)として作用するのである。
■店舗にオイシイしくみ
ここまで考えると、この商品のKSF(Key Success Factor=成功のカギ)は、いかに店舗での推奨行動を促すかにかかってくることがわかるだろう。実はこの商品は2重の意味で店舗にとってオイシイ商品なのだ。まず、価格に関しては店頭価格441円とドリンクにしては高額だ。客単価向上が見込める。「アップセリング」である。また、同ブランドの化粧品を使っていない顧客に対しても、ドリンクなら「もう1品」としてオススメがしやすい。「クロスセリング」だ。さらに、ドリンクを入り口として、同ブランドユーザーでなく、通販やドラッグストアなどの商品を一部使用している顧客には、スキンケアからのトータルブランドとしてオススメのきっかけとすることができるのだ。
商品を売るにあたって、店舗(販売チャネル)は紛れもなく要だ。しかし、それは直販である場合を除き、自社が直接コントロールすることができない要素である。それをいかに動かすかは店舗が「オイシイ商品・オイシイ販売のしくみ」になっていると認識させ、動こうと思わせるかがキモになるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。