「クリニーク」の販促バスツアーの効果と今後を考える

2012.06.01

営業・マーケティング

「クリニーク」の販促バスツアーの効果と今後を考える

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 高級化粧品ブランドの「クリニーク」が若年層の新規顧客獲得を狙って、販促バスツアーを展開した。その設計と効果のほどはどうだっただろうか。

 6月1日付日経MJのコラム「プロモーションスタイル」に同施策が紹介された。しくみはブランドロゴと商品を印刷したラッピングの二階建てロンドンバスで東京以西の会場をめぐって、同社の商品を体験してもらうというものだ。仕上がりを撮影し、雑誌「ノンノ」風の冊子の表紙にモデルとして載せてもらえるというオマケ付きである。

 景気低迷の折り、販路である百貨店の集客は低迷し、売り場も2割減少。若年層の来店も減る中、その層との接点確保が課題であったとのことだ。<百貨店に足が向かないのは単に高級化粧品に興味がないわけではなく、気軽に化粧品を試しにくい売り場の雰囲気を問題視>したのが施策展開の原点だという。

 今までと異なるモノを導入する際に必要な要素を、「イノベーション普及論」のE.M.ロジャースが定義しているが、その中でも「試行可能性」は極めて重要だ。本格使用に至る前に、試し、効果を実感することが欠かせないのだ。
 消費者の態度変容モデルの1つである「AMTUL(Awareness:認知→Memory:記憶→Trial:試用→Usage:日常使用→Loyalty:ロイヤル化)」でも「Trial」を獲得できるか否かは、その後、実際に購入し日常的に使用するようになるためには欠かせない分水嶺なのである。

 この施策の秀逸なところは、「単に試して終わり」ではなく、実店舗への誘導が設計され効果を挙げていることだ。そのカギとなっているのが「ノンノ風冊子」である。<そこに近隣の店舗を記載したところ、約4割が来店した>とある。
 消費者の商品認知から初回購入までの態度変容を表すなら、「AIDMA(Attention:注意→Interest:興味→Desire:欲求→Memory:記憶→Action:購買行動)」が有名であるが、冊子を手元に残させることでMemoryさせて百貨店の売り場に足を運ばせ、購買行動に移させるという効果を発揮しているのである。もちろん、イベントバスでTrialしているため、普段なら足を運びにくい百貨店の売り場というハードルも簡単に越えることができる。

 記事では、<1回のイベントで参加できる人数に限りがある>ということから、<効果は未知数>としているが、だとしたら、バスだけに頼らない展開もあるのではないだろうか。
 例えば、「ノンノ風冊子の表紙」をデジタル化してWebにアップして、参加者がその画像を自由に使えるようにする。そしてネット上の口コミの核とするのだ。ネットを媒介とした態度変容モデルには「AISAS(Awareness:認知→Interest:興味→Share:情報共有→Action:購買行動→Share:情報共有)」がある。表紙画像とお試しをした感想をShareさせ、百貨店で購入した商品の感想などを再度共有させるのである。共有のための場は、今日Facebookをはじめとして多数ある。スペース的な問題はあろうが、バスだけではなく、百貨店売り場で冊子表紙の撮影が簡単にできる仕掛けも作れればさらにShareは加速するはずだ。

 効果的な販促は、設計がキモだ。そのために様々な態度変容モデルで消費者の行動を考え、どのように誘導するかを考えることは欠かせない。今回各モデルで検証してみた結果からすると、クリニークの販促は効果的であり、今後さらなる可能性が考えられるといえるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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