私は競り下げ(所謂リバースオークション)自体を否定するつもりはありません。しかし競り下げ調達をやったから調達価格が下がる、コスト削減につながる、というのは全くあり得ない話です。
前回まで三回に亘って企業戦略と調達・購買戦略について書いてきました。
そのきっかけにもなったのは私の問題意識からです。
私の手元に2つの記事があります。一つは日経新聞の『「競り下げ」調達拡大、高額事業も対象に、政府、歳出削減アピール。』という記事です。
「競り下げ」調達拡大の記事は、『競り下げ調達を試験的に少額案件で政府が行ってきたが効果がありそうなので、高額案件にも活用したい」という内容』です。私は競り下げ(所謂リバースオークション)自体を否定するつもりはありません。しかし競り下げ調達をやったから調達価格が下がる、コスト削減につながる、というのは全くあり得ない話です。記事を読むと開始価格から比べて平均18%強のコスト削減ができた、とありますが、開始価格と比べること自体ナンセンスです。開始価格は入札の上限値ですので、そもそも開始価格以上の価格で落札することは一般的なルールではありえないからです。
もし比較するのであれば、通常シールド入札(一回限りの封止入札)や入札以外の方法(例えばフェースツーフェースでの価格交渉)での決定価格との比較をしなければなりません。
私はおそらく日本で一番最初にオークションを経験したバイヤーです。それは10数年前に遡ります。私が外資系金融会社の調達部門にいた時にグローバルでこういうツールがあるから使ってみろ、と言われたのが競り下げシステムでした。最初はもちろん反対しました。「こういうやり方は日本には合わない」と。しかし、海外からあまりにも強く言われたので試しに何件かの案件で活用してみました。そこでびっくりしたのは、圧倒的な業務効率化でした。今までは自分の仕事は複数のサプライヤさんと交渉を進めながら安値でよい買いものをすることだと思っていましたが、オークションは交渉自体する必要がなくなるのです。バイヤーの業務は画期的に変わっていくな、というのがその当時の感想です。バイヤーの仕事は競り下げ以前の競争環境の整備であり、サプライヤとの関係性つくりであり、社内ユーザーとの調整にシフトしていくと感じたのです。
この点から考えると交渉に十分な時間がかけられない、十分な交渉スキルがない人達にとっては競り下げツールの活用はたいへん効果的と言えます。
そういう点からは公共調達に競り下げ方式を活用することは一定の効果があると言えます。しかし、何でも競り下げにしよう、競り下げにすればコストが下がる筈、というのはたいへん危険な考え方です。以前書いたように入札や相見積り、競合は誰でもできます。だから皆がそういう風潮や手法に流れています。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。