スピード経営と顧客視点:アパレルブランド「kay me」

2012.08.03

営業・マーケティング

スピード経営と顧客視点:アパレルブランド「kay me」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 外資系コンサルティング会社出身の毛見純子(maojian works株式会社 代表取締役)はマーケティングコンサルティング会社経営のかたわら、自らも働く女性としての視点を活かし、アパレルブランド「kay me」を立ち上げた。そのスピード感とマーケティングエクセレンスな展開をインタビューで追ってみよう。(文中敬称略)

■事業への想い

 3.11・東北地方太平洋沖地震。形ある物が儚くも消え去り、その後経済の停滞が続いた。その様を見て、コンサルティングを生業とする毛見は「有形のモノを生み出して、経済の復興の一助となりたい」との思いを強くしたという。
 事業としてアパレルを選んだのは、自らが大阪・繊維関係の商家出身であることと、何より自らがリアルターゲットとして「ニーズに応えてくれる服がない。同様な未充足ニーズを抱えている人が少なくないに違いない」という読みからであった。

■「差別化集中戦略」としての事業ドメイン設定

 アパレル業界のトレンドはファストファッションやユニクロに代表される低価格大量生産と、モード系ブランドのような高価格少品種に二極化している。つまり、マイケル・ポーターが「企業戦略の3類型」で指摘した「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」である。そこで、毛見は第3の選択肢を取った。「集中戦略」である。ジャージー素材と呼ばれる伸縮性のある素材のみを使用したイタリア製プリント柄の「働く女性のための」ワンピース。そのニッチなドメインに勝負をかけた。

■キャリア女性の未充足ニーズ

 勝算はあった。毛見自身がキャリア女性であるが、朝から夜遅くまでの長時間労働を動きにくい黒いスーツに身を固め働く姿を目にするに、「もっと楽に、職場でも華やかに過ごしたい」という未充足ニーズを感じていたという。
 毛見はフットワークを使った調査を開始した。有楽町阪急、西武(当時)、セレクトショップのエスティネーションなどキャリア女性の買い物場であるショップを徹底的に調査した結果、「華やかでカラダを楽に過ごせるジャージー素材のワンピース」が売り場にないということを実証した。調査対象はアラフォー、アラサーキャリア13ブランド426着(売り場の型数)。そのうち、ワンピースは59着。ジャージー素材は23着。さらに、時間が経っても着崩れないタイプで、1着4万円以下のものはゼロだったという。
 ここで重要なポイントは、「市場調査」といいうと、フォーカスグループインタビューやネット調査などの実施が思いつくところであるが、「答えはデータの中にだけにあるわけではない」ということだ。自分の仮説を元に、何が売れるのかを「現場」で探索することの重要性が示されているのだ。

■バリューチェーンの構築

 「売れる商品」というKey Success Factor(KSF=成功のカギ)がわかっても、その商品を作るためのバリューチェーンを構築しなければ事業として成り立たない。調達→パターン製作→縫製→在庫→出荷→販売→アフターサービスという一連のビジネスプロセスを実現しなければならない。そこで毛見はSNSやFacebookのつながりを辿り、大阪・船場の繊維商社との窓口を開拓することに成功した。しかも、毛見の熱心なプレゼンテーションによって「kay me」ブランドの将来性が買われ、大きな費用がかかる生地の在庫負担などバリューチェーンの大半のリスクを商社が負ってくれる契約を取り付けた。キャリア女性が手軽に手が届く1着4万円以下の価格実現も堅持した。
 驚くべきはここまでのスピードだ。震災を機に事業を思い立ってから実に1ヶ月強しか経っていないのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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