『心でっかちな日本人』

2012.08.09

ライフ・ソーシャル

『心でっかちな日本人』

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

『心でっかちな日本人』は、社会心理学者、山岸俊男氏の2002年の著作です。 山岸氏には、 『信頼の構造』 『安心社会から信頼社会へ』 『社会的ジレンマ』 などの優れた著作もあります。

さて、山岸氏によれば、

「心でっかち」

とは、心と行動のバランスが取れなくなっている状態。

ひらたく言うと、様々な社会の問題の「原因」をやみくもに

「心」

に求めてしまうこと。

「心の持ちようさえ変えればなんとかなるさ」

といった「精神論」はその極端な例です。

例えば、最近も再び社会問題化している学校での「いじめ」は、

「子供たちの『心』が荒廃しているから」
(ex. 思いやりの心が育まれていないから・・・)

といった紋切り型の考え方にとらわれている人は、

「心でっかちの落とし穴」

にはまった人の典型だと山岸氏は指摘します。

そして、山岸氏は、いじめが起こる一番の原因は、

「頻度依存行動」

にあると主張しています。

「頻度依存行動」とは、

「赤信号、みんなで渡れば怖くない」

というギャグに代表される行動です。

すなわち、自分が「ある行動」をするかどうかは、「その行動」を取っている人がほかに何人くらいいるかによって決まる(依存する)ということです。

「いじめ」はどんな学校・学級(あるいは企業)にも起こりうるということが言われていますが、それが広がってしまう、あるいは深刻化する背景には、「頻度依存行動」がある。

具体的に言うと、いじめをする生徒が増え始め、ある人数を超えると、いじめを阻止しようとする行動が取りにくくなるのです。

というのも、阻止しようとした生徒本人が、新たないじめの対象になる可能性があるからです。

このため、積極的にいじめに加担するか、または、黙認するしかなくなってしまうわけです。このため、いじめが深刻化していく。

逆に、そんな状況でも、勇気を持っていじめを阻止しようとする生徒が出てきて、「いじめ阻止」に賛同する生徒が一定の人数を超えると、いじめの加害者たちは、いじめを続けることが自分にとって不利な状況になってくるため止めざるを得なくなる。

このように、私たちは基本的に、集団監視下において、どんな行動に従う
(=他者の行動を真似する)のが自分にとってメリットが大きく、リスクが少ないかに基いて、自らの行動を決める傾向があります。

これは、いわば「集団力学」の問題であって、いじめの原因を個々人の「心」に求めるのは、まさに「心でっかち」と言えるというわけです。

頻度依存行動は、社会のあらゆる状況において観察されることであり、マーケティングの視点では、

個々人のニーズや価値観、パーソナリティ(性格)

などだけでなく、頻度依存行動のような

「社会心理」

が消費行動に与えている影響の大きさを無視してはいけないということが言えます。

『心でっかちな日本人』を読めば、思考停止に等しい「思い込み」や「固定観念」を捨て、現実をありのままに見る力を養うことができるでしょう。ご興味もたれた方はぜひご一読を!

『心でっかちな日本人』(山岸俊男著、筑摩書房)

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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