アイスクリームのPARM(パルム)シリーズ、累計販売数10億本。新商品の「PARM ピュレコーティング オレンジ&バニラ」も5月末の発売以来1ヶ月で年間目標の半数である710万本を売り、現在(取材時期:8月下旬)までの約3ヶ月間で既に年間目標を達成しているという破竹の勢いである。そんなパルムの「売れ続けるヒミツ」を森永乳業のブランド担当者にインタビューしてきた。
パルムが市場に登場した2005年当時、プレミアムアイスはハーゲンダッツが約90%という不動のシェアを占めていた。一方、マルチパック、つまり箱入りアイスは子ども向け、親子向け商品ばかりが棚を占めていた状況であった。
「大人向けの箱入りアイスを作る。それが最初の挑戦だったのです」。担当者は当時を振り返った。
「大人向け」というポジショニングをどのように実現したのか。それは、製品(Product)と価格(Price)のバランスにある。当時の箱入りアイスは店頭価格300円が相場。そこを50円あげて350円(当時)というターゲットプライスを設定した。それによって、バリュープロポジション(そのブランドや製品がとり得るポジションニングの前提となる相対的な提供価値の分類)を明確にする「高価値戦略」狙いである。(図1)
製品へのこだわりは凄まじいものがある。パルムは「なめらかな口どけのチョコレートとリッチなミルク感」を特徴とした商品だ。それを実現するために、プレミアムアイスクリームと同様のクリーム・脱脂濃縮乳を使い、急速冷凍することで氷の結晶の細かいなめらかなアイスを実現したという。さらに最大の特徴はアイスクリームを包むチョコレートは体温と同じ温度で溶けるようにコントロールされており、口に入れた時になめらかに溶ける仕組みに仕上げたのだ。
発売後に実施した消費者に対する定性調査では、箱入りアイス以外のプレミアムアイスと比較しても遜色ない評価を得られた。ハーゲンダッツに代表されるプレミアムアイスは「週末に気合いを入れて食べる」という用いられ方をする。それに対し、6本入りのパルムは平日に家の中でゆったりと毎日食べるという用い方をしていることが明らかになった。そこから、「毎日のちょっとしたぜいたく」=「デイリープレミアム」というメッセージが紡ぎ出されたのである。
2005年の発売時、最初の半年間はやはり350円という高めの価格が引っかかり、苦戦をすることとなった。しかし、粘り強い店頭での試食プロモーションが奏功し、小売店の空きの棚替えの時期に棚をしっかりと確保して消費者の人気にも火がついた。そこから、累計10億本ロードが始まったのである。
パルムは年間100億円の売上を達成するに至り、森永乳業の社内では新たな挑戦の機運が盛り上がってきた。「チョコ素材以外で、新たなコンセプトを作り上げようと考えたのです」。ブランド担当者は開発当時を振り返る。
「家の中で自分の時間でゆったりと食べる」。そんなパルムのコンセプトは十分に浸透した。では、次なる挑戦はどのようなシーンを狙うかだ。毎年繰り返しやってくる猛暑。今年の夏も暑くなるだろうと予想して、氷系のアイスに狙いを定めた。氷系のアイスといえば代表格は「ガリガリ君」だろう。それは食べれば確実にカラダをクールにしてくれる。だが、それはどちらかといえば物性的な価値だ。それに対し、パルムは「外から帰ってきて、家の中でゆっくりとしながらカラダも気持ちもクールダウンする」。そんなコンセプトが考案された。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。