「見てるだけ~」を覚えているだろうか。1994年放映のカタログ通販・ニッセンのCMだ。 英文学者(元大学教授)、フェミニスト運動家のタレント・田嶋 陽子の起用でも話題になった。
http://youtu.be/pOYPSJ_QzSY
女性グループがアパレル店の店頭で口々に「見てるだけ~」と言って商品を品定めして店を出て行く。キャッチコピーは「店で調べて家で買う」だ。
さて、それから20年近く経過した今日、ニッセンは新たな「見てるだけ」の展開を始めた。いや、見てるだけではなく、写真を撮ってもいいのである。
2012年9月4日付・日本経済新聞消費欄コラム「旬スポット」には「撮ってもいい試着室」という記事が掲載された。ニッセンがセガと提携し、「梅田ジョイポリス」で始めたサービスだ。
通販でしか手に入らない服を1着100~200円払って試着(500円で試着し放題)し、最新のプリントシール機を使用して撮影するというしくみだ。無料で髪をセットする美容室の出張サービスもあるという。
カタログ通販がメインのニッセンにとって接点の少ない、プリントシール機を利用する層の開拓はブランドを高齢化させないためにも欠かせない。また、ZOZOTOWNなどのネットアパレル通販の成長に指をくわえてみているわけにも行かないのだ。顧客接点をどう作るか。その試行の一つがこのセガとの提携なのである。だが、誰でも彼でも接点を作ればいいというわけではない。同社の商品にお金を払ってもいいという、高関与度を持った見込み客を取り込みたい。故に、最低100円を払って試着をさせるという「足切り」のハードルを設けているのである。
この展開をフレームワークで考えてみよう。今まで接点のなかった顧客層に「お試し体験」をさせるという考え方は、通販事業者の基本の基である「AMTUL」つまり、Awareness:認知→Memory:記憶→Trial:試用→Usage:日常使用→Loyal:ロイヤル顧客化という消費者の態度変容プロセスで設計されている。特に「認知」がない消費者を「試用」させるというのが、シールプリント機でのお試し撮影のキモなのである。
ニッセンの狙いはそこだけではない。プリント機で撮影した画像はデジタルになっている。記事では<画像データは携帯電話で友人らに送れるので、自慢したり交換したりして楽しめる>とある。これはネット時代の態度変容モデル「AISAS」つまり、Attention:注目→Interest:興味→Search:検索→Action:購買行動→Share:共有というプロセスのうち、有料試着撮影という議事購買をして、その結果がシェアされるAISASの後半を狙ったものだといえるだろう。
「見てるだけ~」のCMから18年。古くて新しいO2O(ONLINE TO OFFLINE)というキーワードも登場してきているが、ポイントは「自社にとって必要なターゲットを見極めること」と、「その行動を確実に促進させること」に他ならない。その意味では、型にはまった概念やフレームワークにとらわれる必要はなく、課題解決のための独自のプロセス設計が求められるのだ。ニッセンのユニークな施策に注目してみたい。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。