ヒット商品を作るには。そして、ヒット商品をロングセラー化するには。グリコ乳業は大ヒット商品「ドロリッチ」で、商品開発の一大テーマであるその解を「環境変化への対応」という基本から導き出した。その過程を開発チームへのインタビューで追ってみよう。
■市場のニーズ:2007年当時
「飲料の世界では明らかなトレンドが見て取れました。その消費者のニーズを捉えることができれば、新たなカテゴリを創造できるかも知れないと考えたのです」。グリコ乳業のマーケティング担当者は当時を振り返った。
カフェゼリーとクリームがほどよく混ざった食感が特徴の「ドロリッチ」は主にCVS(コンビニエンスストア)のチルド製品棚で販売されている。それは、「飲料」なのか、「デザートなのか」と、大ヒット・ブームの中でファンが論議することが多かったが、答えは「デザート飲料」という両者の中間的存在なのである。元々、「デザート飲料」というカテゴリが市場に存在していたわけではない。それこそがドロリッチが作り出したカテゴリなのだ。
開発に際して、グリコ乳業の開発チームはまず、欧米で「スムージー」が大人気となっていることに注目した。同様なトレンドが日本でも見て取れないか。そのため、チームメンバーは駅などのジューススタンドやカフェの店頭で来店客の購買行動を徹底して観察したという。その結果、ジューススタンドでは利用者のビジネスマンやOLの40~50%が、「とろり」としたミックス系ジュースを選択し、朝食代わりのライトミールとしていることを発見した。また、カフェではスターバックスの「フラペチーノ」に代表されるような、コーヒーや果汁等のデザート的飲料が大人気でメニューも充実してきており、商品の構成比は6~7割に登り、来店客の注文比率が高いことも確認したという。そして、開発チームは観察の中から3つのキーワードを発見した。「スピーディー」「ながら飲み」「腹持ちの良さ」だ。
■独自ポジショニングの確立
「スピーディー」「ながら飲み」「腹持ちの良さ」というキーワードに「ほっと一息できる」というベネフィットを加えた訴求ポイントが整理されたが、そこから単純な飲料ではなく、デザートの特徴を取り込んだ独自の商品として展開する可能性を追求することとなった。実は、商品開発のチームは市場自体が飽和している「飲料」ではなく、成長余地のある「デザート」のチームが主管しているのである。故に、ブランドネームも単純な「コーヒーゼリー“飲料”」などではなく、新カテゴリを表すような従来にないインパクトのあるアンブレラネームを必要とした。
差別化ポイントは「固体と液体がほどよく混ざったとろり濃厚食感」であると整理され、そこから「ドロリッチ」というネーミングが検討された。「ドロ」という食品らしくないネガティブな語感が含まれるネーミングは、社内からの猛反対を受けた。しかし、他社の類似商品との明確な差別化のために開発チームは社内の幹部までを丹念に説得し、ネーミングを押し通したのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。