ジジイの説教に泣いてもいいですか

2012.12.27

経営・マネジメント

ジジイの説教に泣いてもいいですか

坂口 孝則
未来調達研究所株式会社 取締役

感動するコスト削減は、一人ひとりの勇気からはじまる。

調達担当者はなぜ、コスト削減をするのでしょうか。もちろん、会社から定められた目標があるからです。ただ、なんのための目標なのでしょうか。それは、組織のため、安価な製品を市場に提供するためです。では、なぜ組織のため、製品のために行動する必要があるのでしょうか。それは、自分が働くうえでその組織の理念に共鳴したからです。

いま、なぜそこで働いているのか。この根源的な理由を失念しないほうがいいと思うのです。

でもね、そう建前ばかり信じることはできませんよね。「泥臭い仕事ばかりだ」「社内の地位が低い」「上司が目標ばかり求める」「ときには人格も否定されてしまう」など、現実はうまくゆかないことばかりだからです。

最近は、多くの人がウツ状態になってしまうといいます。しかも、それは人間関係に起因するものです。上司が誰かを叱るとき、その相手が「か弱くなった」ことはありえます。ただ、上司の多くは、部下の成長を祈っていることがほとんどです。ただ、言い方が強いばかりに、部下は必要以上に強く受け止めてしまうのですね。それが「ときには人格も否定されてしまう」という感想につながっていきます。

くだらないと思うかもしれませんが、先日、ある方からお聞きした話を書きます。

その上司と部下は、調達部門で長く仕事を続けてきた二人でした。その上司が、ご定年で会社を辞することになったときのことです。その上司はそれまで部下にあたり散らしては、嫌われていた人だったようです。ある部下(この話の登場人物です)は、上司の定年にあわせて、不平不満をつらねた手紙を送ってやろう、と画策しました。これまで苦しめやがって、馬鹿野郎、というわけですね。

しかし、部下はその手紙を書いているうちに、どうも不平不満を書けなくなった。去り際にそんなこと書いてどうするんだ、という想いもよぎったのでしょうか。手紙を書けずに、上司の退社日を迎えてしまいました。

すると、逆に、上司が部下の一人ひとりに手紙を渡してくれたそうです。強がる人だったためか、「手紙はあとで読め」と部下に指示したそうです。

上司が去って、その部下は自宅で手紙を開けました。その部下は読んで泣いてしまったそうです。自分が不平不満を書こうとしてしまった反省もあったかもしれません。そこには、こう書かれていたようです(伝聞なので原文ではありません)。

・これまで厳しく指導してきて悪かった
・自分は昔、もっと強い指導を受けてきた。
・そのとき、「こんな上司にはならないぞ」と願ってきたが、自分がそうなってしまった。
・ときには感情に任せたときもあった。申しわけなかった。
・ただ、真剣に君たちを育てようとしたことだけは信じてほしい。
・苦労に苦労を重ねた人と、気楽に仕事を続ける人とでは、人間の質が異なってくる。
・厳しく育てられ自ら生きて行ける人、そして甘やかされて育てられ一人で生きてゆけない人。
 その教育のどちらが、ほんとうの「やさしさ」だろうか。
・今後も、君たちにうわべの優しさをふりまこうとする人たちがいるだろう。
 君たちには、ほんとうの「やさしさ」と「まじめさ」を見抜く力をつけてほしい。
・君たちの成功を心から祈っている。

経験とは、加齢とともに増え、それだけは若輩者がどうやっても追いつけないものです。

いまこそ年長者の熱のはいった本気の説教を聞きたい、と思うのは私だけでしょうか。

感動する組織づくりは、年長者のちょっとした勇気からはじまるのかもしれません。

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坂口 孝則

未来調達研究所株式会社 取締役

大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。

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