ビール類総市場不振の中で成長している銘柄といえば、まず思い浮かぶのが「ザ・プレミアム・モルツ」だろう。2012年のビール類総市場の伸長率は対前年比99%と前年割れの中、「ザ・プレミアム・モルツ」は110%と二桁増の勢いだ。その好調のワケをサントリー酒類株式会社 ビール事業部プレミアム戦略部 課長の安達考俊氏に聞いてきた。
■プレモル大ヒットの軌跡と再びの危機
「ザ・プレミアム・モルツ」(以下、プレモル)の歴史をひもとけば、1989年に遡る。前身となる「モルツ・スーパープレミアム」。「知る人ぞ知るビール」として多摩地区限定でスタートし約10年間、限定販売としてあたためてられた後に、全国販売をスタートした商品である。ところが販売実績は思うように伸びなかった。。サントリーのビール事業は赤字が続いている中で、大きな投資を伴っての新ブランド立ち上げだ。そのままでいいはずがない。
転機となったのは、2005年のこと。2003年に「ザ・プレミアム・モルツ」と商品名を改め2005年にモンドセレクションに出展したところ、ビール部門で日本勢初の「最高金賞」を受賞した。そして2007年まで3年連続で同賞を受賞という輝かしい成績を残したのである。その実績が注目され、一気に大ブレイクを迎えたのだった。
しかし、その栄光に安寧としているわけにはいかなかった。プレモルは堅調に伸び続けてはいたものの、以前ほどの爆発的な伸びは記録できなくなってきていた。2011年のことだ。
■開発当初からのコンセプトに立ち戻る
そもそも、ビール類総市場は2000年代以降伸びていない。同市場は一人あたりGDPと連動しているといわれているが、バブル崩壊以降の景気の低迷が市場に重くのしかかってきている格好だ。だが、伸びているカテゴリーもある。新ジャンル(第3のビール)だ。安いものが求められるのは不景気の常である。しかし、もう一方でプレミアムビールも伸びているのだ。
「完全な二極化が進んでいる」と安達氏は言う。顧客層が二極化しつつ、一人の顧客の中でも「特別な時に飲む」といった「使い分け」も進んでいるという。つまり、顧客層と利用シーンの二極化だ。
安いものばかりが求められるのであれば、プレモルが再び躍進する目はない。しかし、一方でプレミアムニーズは確実に市場に潜在している。それをいかに顕在化させて掴み取るかが問題だ。それには、「Value for moneyに応えることが欠かせない」と安達氏は強調する。「手間隙を惜しまず、お客様にとって価値あるもの、つまり本当においしいもの、世界最高峰のビールをつくりたいという開発者の思いがいきつづけています」。
そのおいしさのキーワードが、「ヴァイタートリンケン」。ドイツ語で「飲み飽きない。もっと飲みたくなる。」という意味があるという。プレモルの開発当初からのコンセプトである。
「ヴァイタートリンケン」とは、単なる飲みやすさではなく、もう1杯が飲みたくなるうまさ。すなわち「しっかりしたコク・うま味」を意味する。「例えるなら、飽きることなく後を引く、料亭のお吸い物の出汁」のようなものだと安達氏は言う。そのコンセプトをさらに実現した味を開発するのが、プレモルのステージアップには欠かせないと判断されたのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。