どんな企業のバイヤーに「調達・購買部門の役割は何?」と尋ねても答えは「いいモノ」を「より安く」「より早く」買うことでしょう。 しかし私はこれからの調達・購買は「普通のモノ」を「より高く」買う力が 必要になってくると考えます。
以前、私は「いいモノ」よりも「普通のモノ」を探し出し、それを自社製品に採用させる能力が求められるようになるだろうと述べました。どんな企業のバイヤーに「調達・購買部門の役割は何?」と尋ねても答えは「いいモノ」を「より安く」「より早く」買うことでしょう。しかし私はこれからの調達・購買は「普通のモノ」を「より高く」買う力が必要になってくると考えます。
こう言うと「とうとう正月ボケで野町もおかしくなったか」という声が聞こえてきます。
リーマンショック以降、多くの企業で全社コスト削減活動という名の下でサプライヤに対して(無理な)コスト削減を強いていたことは事実です。無理を承知で「とにかくコストを下げる」ことが第一優先だったのです。
それが2011年の東日本大震災やタイ洪水被害などの事案から供給リスクマネジメントを考慮し、マルチソース化や供給リスクを回避する必要性から特定の優秀なサプライヤを囲い込みしていこうという流れがでできました。
2012年は円高の進展により地産地消が進んだ年となりましたが、グローバル市場で勝負するためには国内だけでなくグローバルで一層優秀なサプライヤベースを確保する必要性がでてきました。このような時代背景から2013年は「より安く」買うことよりも「より良いサプライヤから」買うことがより重要視されてくるでしょう。それも短期的な取引ではなくより長期継続的な取引を前提とした関係性作りが「より良いサプライヤ」との間に求められてきます。
過去から企業の事業成長期や新規市場開拓時の企業にとって「より良いサプライヤ」との関係性づくりは欠かせないものであり、それが2013年にはより一層求められるようになるということなのです。
こういう時には場合によってはわざと「高く買う」技術も必要になってきます。ただ考えてみてください。「高く買う」というのはある意味「より安く買う」よりも難しいことです。「高く買う」ということは買うモノの価値を見極める能力が必要です。例えば競合他社が購入している価格との比較であったり、コストテーブルに基づく査定価格であったり、比較するものは様々ですが、いずれにしても買うモノの価値やコストが分かっている人間でないと「高く買う」ことはできません。また「高く買う」ことによりサプライヤの収益構造を改善させたり、それを再投資に回させたりすることでサプライヤベース全体での競争力強化に結び付けていくことも不可欠です。そういう点からはサプライヤ個々の事業戦略や投資戦略、収益構造や収益改善に対してもアドバイスやコミットできる能力が必要となります。もっと言えば単に「高く買う」のではなく、それを施策にしてサプライヤにこちらを向いてもらう関係性構築の能力も必要となってきます。
このように考えると実は「高く買う」技術というのは非常に難易度の高いことだと理解できるでしょう。この難易度の高いチャレンジを行うことで今後十年などの長いスパンで見ると「トータルで安い買いモノ」をしている姿になっている、これを作るのがこれからの購買力・調達力なのです。
2013年はこのように「よりいいモノをよい安く」からの脱却の時期になるというのが私が考えていることです。
企業の調達・購買部門やバイヤーのチャレンジは今後も続きます。
私もこのようなチャレンジを一層支援していく所存です。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。