「精神的癒着」の排除とサプライヤマネジメント

2013.04.05

経営・マネジメント

「精神的癒着」の排除とサプライヤマネジメント

野町 直弘
調達購買コンサルタント

10年以上前、調達・購買部門は社内やマネジメント層から不透明な部署としてややもすると捉えられていました。 ある経営者は私に向かって「あいつらが何をやっているか教えてくれ!」と言いました。

10年以上前、調達・購買部門は社内やマネジメント層から不透明な部署としてややもすると捉えられていました。
ある経営者は私に向かって「あいつらが何をやっているか教えてくれ!」と言いました。ここまではいかないにしても社内からはサプライヤと癒着し、接待を受け、盆暮れには中元お歳暮が届く人達という認識が大勢でした。しかし最近はこのような調達・購買部門の位置づけは変わりつつあります。社内、もしくは部内の規範や規定に基づき一切の接待や贈答品を断ることは当たり前です。むしろ従来型の癒着とは別の意味の癒着が調達・購買部門ではないユーザー部門や要求元とサプライヤとの間にあるように感じます。ユーザーや要求元は何も個人的な利得のために癒着をしている訳ではありません。

彼らは業務を遂行する上で、時間がないから、便利だから、付き合いが深く色々説明する必要がないから、切替えリスクがないから、、という理由で既存のお取引先との取引を続けたいという意向を持っているだけなのです。そういう意味ではこの関係は「精神的癒着」の関係と言えるでしょう。
「精神的癒着」というのは強い相互依存(強い依存関係)がもたらすものです。つまりユーザー部門要求元、開発部門とすれば、あそこに任せておけば大丈夫、というサプライヤに依存したい、他方サプライヤ側もユーザーや要求元、開発部門の言うとおりにしていれば仕事が来る。このように相互の依存関係が持ちつ持たれつの中で強力にできあがっているのです。このような状況が企業としての最適な買い物によくない影響を与えていることは間違いないです。もちろん、ユーザーや要求元、開発部門の声を聞くなと言っているのではありません。このような社内の様々なステイクホルダーとの調整を踏まえた上で第三者が見ても納得できる理論的なサプライヤ選定をするべきだと言っているのです。
私はこのような「精神的癒着」関係を排除するためにはサプライヤ評価やサプライヤとの関係性づくり(戦略)が有効だと考えます。サプライヤ評価は公平かつ継続的な評価が重要です。これによってユーザーや要求元、開発部門も納得のいくサプライヤ選定が可能になるからです。当然のことながら前提となるのは一社だけしかできない、という状況を作らない歯止めも必要になってきます。一方でサプライヤ戦略は特定のサプライヤとどういう関係性を築いていくか、という考え方です。これをユーザーや要求元、開発部門本位ではなく自社にとって総合的にメリットのあるサプライヤを育てていく、というような視点も調達・購買部門でしかできない見方になります。私が現役バイヤーだった時には事前の相談なしに開発部門が勝手に見つけてきた技術やサプライヤの採用に対しては徹底的に対抗しました。どんなに時間がなくても、どんなに忙しくても必ず徹底的に対抗先を探し相見積に持っていったのです。
「ここのサプライヤにしかできない」
「この新技術でないとコスト目標を達成できない」と開発部門はいつも言います。しかし徹底的に探すとそうでなく例えば代替技術があったりします(例外なく)。彼らのこれらの言葉はあてになりません。また当初彼らの言葉を信用して開発を進めたこともありますが、必ず(これも例外なく)品質問題や納期問題につながって後でたいへんな思いをする、というのが常だったからです。一方でサプライヤ戦略も同様です。よく契約先とは違うサプライヤの物品やサービスが安いからこっちを買いたいという話がユーザー部門からでてきますが、需給の状況とは関係なく常に必要な時に必要な物品やサービスを提供してくれるような契約サプライヤを優先するというのは極めて当たり前の話です。
このように「精神的癒着の排除」にはサプライヤ評価や戦略が有効であり、それをユーザー部門や要求元、開発部門に理解してもらうことが極めて重要になります。サプライヤマネジメントは形式的になりがちです。しっかり仕組み化している企業でもサプライヤ評価はやっているものの何を目的にしているのか、不明である、という声もよく聞かれます。もしユーザー部門とサプライヤとの「精神的癒着」に悩まれているのであれば、またそれを排除することが調達・購買部門としての本業であると考えている企業であるならば、サプライヤマネジメントを本当の意味で機能させることも解決策の一つになると考えます。

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野町 直弘

調達購買コンサルタント

調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。

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