日系メーカーがiPhoneを作れない理由が、理由になっていない件

画像: jeff_golden

2015.08.10

経営・マネジメント

日系メーカーがiPhoneを作れない理由が、理由になっていない件

坂口 孝則
未来調達研究所株式会社 取締役

日系メーカーがiPhoneを作れない理由が、理由になっていない件を語りつつ、スティーブ・ジョブズの強さを述べる。

この1年(2013年)、アップルコンピュータについて、さまざまなメディアで書いてきました。雑誌やウェブマガジン、そしてテレビでアップルの凄さについて解説しました。私のセミナーでもアップルの凄さを説明しています。デザイン、開発・設計、生産委託、アフターサービス、コンテンツ販売、そして調達。どの側面から見ても、注目に値します。

しかし、そのなかでももっとも考えるべきは「なぜアップルがあれほど独創的な商品を開発できたのか」でしょう。実はこの問題について明確な答えを出しているひとはいません。どの論者も、スティーブ・ジョブズが偉人だったとはいっても、なぜアップルとジョブズが、マックやiPhoneなどを創出できたのかについてハッキリとした解答をしていないのですね。

でも、それって私の不満でもあったわけです。コンサルタントという立場は、再現性のあるノウハウを語るべきです。特定事象といってしまったら、学ぶ価値はありません。それに、それこそを分析しなければジャーナリストとも言えないし、評論家とも言えないし、コンサルタントとも言えない。じゃあ、なぜアップルが卓越した商品を創りあげることができたのでしょうか。

正直、私も自分なりに分析したもののわかりませんでした。これの答えは、「日系A社でもなく、日系B社でもなく、日系C社でもなく、アップルが優れているのか」を記述したものでなければなりません。なぜなら「独創的な商品を日本メーカーも創りましょう。付加価値のある商品を開発しましょう」といったところで、まったく意味がありません。その方法がわからないから
困っているわけです。

私はジョブズのインタビューから自伝から、さまざまなものを読みました。そして日系メーカーの凋落理由を語る本もかなり読みました。それでもなお、絶対的な差異がわかりませんでした。

ただ、あえていうと、一つ違いを見つけました。私としては収穫でした。それは何か。簡単に言うと、ジョブズはインタビューで「音楽への愛」を語っています。その一方で、日系のトップから「音楽への愛」を読むことはありませんでした。後者は、もちろん、ビジネスモデルとして音楽やダウンロード販売を語っています。しかし、「俺が音楽大好きなんだ」とか「ポータブルプレイヤーを俺自身が使いたいんだ」と発言した例は知りません。あくまでも、いまの日系経営陣のことです。

私は、ジョブズは音楽がとても大好きだったのだ、と思います。もちろん、このことだけを指してアップルが成功したといいたいわけではありません。ただし、いまの私は、アップルの成功の8割くらいは、スティーブ・ジョブズというトップが音楽好きだったことではないか、とすら思うのです。言いすぎでしょう。しかし、繰り返し、日系トップと、スティーブ・ジョブズの違いはそこでした。

商品を好きなこと。これがイノベーションを起こす「たった一つの冴えたやり方」かもしれません。とするならば、調達・購買の世界でも成功する「たった一つの冴えたやり方」は自分の調達品を好きになることでしょう。現場で対象を好きになる。そんな簡単な成功法則があったでしょうか。

しかし、私はけっこうまじめに考えています。好きになること。こんな平凡で凡庸で言い古されたことが、成功法則だったなんて。

*なお、現在の日本の経営者でジョブズ同様の発言をなさっている方がいれば、私の不勉強ということであらかじめお詫び申し上げます。

(再掲載)

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坂口 孝則

未来調達研究所株式会社 取締役

大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。

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