東京進出以来昨年で10周年を迎え、多くの企業の事務所でお馴染みとなっている「オフィスグリコ」。全国のサービスエリアを中心に人気となっている土産店「ぐりこ・や」。一見別々の展開に見える両者は、1997年に発足した「顧客接点を多様化させる」プロジェクトが結実したものだという。江崎グリコへのインタビューで明かされた同社の戦略を考察してみよう。
■既存の発想を超えろ!
「既存の売り方では限界が来るという、明確な危機感がありました」。広報担当者は語りはじめた。
1990年代、日本の人口動態は急速な少子化進行を示していた。大手菓子メーカーとしては主たる消費者である子どもの数が減少することは、ビジネスの縮小と直結する。そこで、「今までにない売り方」が様々検討された。当時はまだ菓子が多く扱われていなかったホームセンターやドラッグストアなど、「今までにない売り場」をおさえる新チャネル開発や、もっと賞味期限の短い商品を流通させるなど、「今までにない販売の仕組み」を展開する物流改革などである。それらのアイディアをさらにブラッシュアップし、商品をどう売るかという「モノ売りの発想」をやめ、顧客の視点から菓子に触れる新しいタイミングやシーンを考えていこうという取り組みが考えられたのである。
■見出されたビジネスチャンス
最初に行ったのは「生活者の1日」を観察することだったという。小学生から60代までの数百名を対象に調査をした結果、「菓子を食べるシーン」として、約70%が「家庭」、約20%が「オフィス」という数字が浮かび上がってきた。今では当たり前となった「オフィスで菓子を食べる」という光景だが、当時の担当者にとって大きな驚きだったという。そこで、「働くこと」と「菓子を食べること」という2つのシーンをつなぐ、新市場創造の可能性が見出された。「オフィスグリコ」のアイディアの原型が誕生した瞬間である。
■「モノ」ではなく「コト」を売る
担当者が注目したのは、オフィスで菓子が用いられている状況だ。当時は1991年のバブル崩壊からの長引く不況の中、業績回復を目指し多くの企業が成果主義を導入。オフィスで働く人々にとっては労働の効率化や時間管理など、ストレスが増大し始めている時期だった。
「人間は一日中、集中できる訳はない。『ちょっとお腹がすいた』時、『あともうひとがんばり』という時、次の仕事に元気に向かうツールとしてお菓子は役に立つ」。との考えから、お菓子にオフィスでの「リフレッシュメント」という新しいコンセプトを創造したという。つまり、「モノとしての菓子」を売るのではなく、「ソリューション=コトとしての菓子」を売るという発想である。
アイディア誕生から1999年の大阪、2002年の東京での本格スタートまでには簡単には語り尽くせない苦労があったというが、現在その成果として年間43億円の売上を上げるまでに成長している。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。