/ガザ侵略の背景には、ユダヤ系富裕層が国際支配を確立した金融資本主義による重化学工業産業革命の終焉、農業とエネルギーという人間生存の基本資源への世界的な回帰という、もっと大きな文明論的転換の問題が潜んでいる。/
イスラエル国外にいる国際富裕層にしても、安泰ではない。農民や庶民が多かったユダヤ系貧困層と違って、彼らは、中世から王室御用達の資金調達係として特権的な地位にあった。そして、彼らの国際支配を決定づけたのが、対仏ナポレオン戦争だった。彼らは、各国でナショナリズム化した当時のフリーメーソンに代わって、その莫大な戦費を、敵国からさえ広く世界的に無国籍の「戦争投資博打」として吸い上げて調達してみせた。以後、アジア・アフリカの植民地侵略、その帝国主義戦争において、彼らは無くてはならない政治的存在となり、また、民生部門においても、その基幹となる重化学工業への産業革命と資本主義に対して国際金融で活躍し、さらには国民を戦闘的なナショナリズムで洗脳する新聞や映画、ラジオ、テレビなどのメディアを独占的に支配してきた。
しかし、今日、植民地拡大だの、帝国主義戦争だの、米国ですらベトナムやアフガンでも失敗し、それこそもはやイスラエルくらいしか残っていない。重化学工業も、いまさら水利ダム建設や鉄鋼石炭業、石油コンビナードでもなく、それほど巨大な国家的資本調達の必要性もなくなっている。また、新聞やテレビのような国民洗脳メディアも、インターネットの登場で、情報統制力を失っている。このため、ユダヤ系国際富裕層は、金融とメディアに代えて、イスラエルを拠点に、今日、ITと医薬品による世界支配戦略に転換し、これらを彼らの新たな存立基盤にしようとしている。
だが、農地開拓の失敗、致命的なエネルギー不足は、ITだの医薬品だの以前に、イスラエル存立の根底を揺るがしている。農業自給率は、農地侵略と技術開発によって、かろうじて高い水準を保っているが、これももはや限界。まして、エネルギーに関しては、米国政府と一体となって中東諸国を分断することで、カネの力で石油を調達してきたものの、いま、アジア・アフリカに関しては、反英反米の中国・ロシアの金融支援がすでに確立しており、分断対立からイスラム圏復興に向かいつつある中東諸国の石油とそのオイルマネーの規模が、もはやユダヤ系の資源と資金の調達力を上回っている。くわえて、ITや医薬品に関しても、ロシアや中国、インドの技術力が劇的に向上しつつあり、かならずしもイスラエルが優位有望とは言えない。
それで、とりあえずガザ地区だ。2000年代になって、東地中海の天然ガス田が開発され、イスラエルは、米国中東政策経由での石油から、この天然ガスにエネルギー政策を一気にシフト。ガザ自治区領海をかってに横断している海底パイプラインでエジプトに送って、液化して世界に再輸出し、地球の危機の世論を煽って、環境負荷が少ないとされる天然ガスで、中露やオイルマネーから国際経済の主導権を奪い返す、などという壮大な計画だった。ところが、早くもその近々の枯渇が明らかになってしまった。一方、むしろエジプトのナイル河口沖で、はるかに巨大な天然ガス田群が発見され、むしろイスラエルはいずれエジプトなどの中東側からふたたびエネルギー供給を受けなければならない側に。
解説
2023.06.22
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大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。