葬儀で“故人”が最期のあいさつ 「生前ビデオ」

2024.02.19

ライフ・ソーシャル

葬儀で“故人”が最期のあいさつ 「生前ビデオ」

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

死を想像することと、生きがいの関係。

●「死をイメージすること」の大切さ
子守さんの会社にはスタジオがあり、収録用のセットも設けられていますが、そこに行って「ハイどうぞ」で映像が出来上がるわけではありません。当然、話す内容をしっかり準備する必要があります。準備は、子守さんやスタッフの方々と一緒に行いますが、この準備も「生前ビデオ」の意義だろうと思います。「自分の死を想像する」という貴重な機会となるからです。

「生前ビデオ」は、自分の葬儀で流す映像を撮ると同時に、いつか死が訪れるという現実を自覚する機会となります。「残された人生の時間には限りがある」という事実と向き合うことです。そしてそこから、残された人生を大切に生きよう、生きがいを見いだしてその実践に努めようという姿勢が生まれてきます。年を取れば取るほど、平均的には残された時間が短くなっていきます。持っている時間が減ってくるのですから、「何でもやってみたい」「いつかはやってみたい、いつかやろうと思う」などとは言っていられません。今、あるいは近いうちに取り組まねば、いつ時間がゼロになるか分からないからです。従って、好きなことや大切なことをできるだけ早く発見し、それに絞って集中的に時間を費やすことが大切であるはずです。

こういった意味で、「生前ビデオ」は、余命宣告された人のためだけのものではありません。まだまだ元気な人たちにとっても、生きがいの発見、「人生の最終盤をどう生きるか」という指針を見つけるきっかけとなるはずです。

●「死を意識すると、生き方が変わる」という調査
2014年なので少し古くなりますが、私が高齢者207人に対して行ったアンケート「死に対する考え方、感じ方に関する調査」の結果の一部をご紹介します。

「自分の死を、しっかり意識していますか?」という質問に対して、「そうだ」「ややそうだ」と回答した人の割合は61%で、男女に差はほとんど見られませんでした。死を意識している人とそうでない人はおおむね、6:4であることが分かります。次に、自分の日頃の暮らし方や考え方を、10項目について「そうだ」「ややそうだ」「ややそうでない」「そうでない」の4つから選んでいただき、その結果を「死を意識している人」「そうでない人」に分けたのが、この表です。

これを見ると、死を意識している人の方が社会参加への意欲が高く、前向きな思考を持っていることが分かります。先述した「死を想像する」ことが生きがいを生み、前向きに生きるきっかけになるということが分かっていただけるでしょう。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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