「機能価値」と「使用価値」
~ その1:アップル快進撃 ~

2008.07.17

経営・マネジメント

「機能価値」と「使用価値」 ~ その1:アップル快進撃 ~

横田 宏信

米国アップル社の勢いが止まらない。いま話題騒然の「iPhone 3G」、 7月11日の世界同時発売からわずか3日間で、販売台数100万台を 突破したとのこと。 年初に発売された「MacBook Air」も好調、21世紀のウォークマン とも呼ばれる「iPod」も、今なお堅調だ。

アップルは今、商品価値の本質に最も肉薄できている企業の一つな
のだろう。

しかし、商品価値の本質を考える上で、20世紀を代表する大ヒット
商品であるソニーのウォークマンよりも示唆に富むケースを、私は
まだ知らない。

初期のウォークマンは、録音も再生もできるのが当り前だったそれ
までのオーディオ機器から録音機能を大胆にも取り去り、再生機能
のみを残したものだ。
しかし、このことが機器の大幅な小型軽量化に繋がり、消費者がユ
ビキタスに(いつでもどこでも)音の世界を楽しむことを可能とし
た。

「商品価値とは、その使用者にとっての価値であって、他の何物で
もない」という極めて単純なる商品価値の本質を強調するため、私
の場合、商品価値という一般的な言葉を、意図して「使用価値」と
言い換える。
これを最近流行りの「顧客価値」と言ってもいいのだけれど、
「直接部門に対する間接部門の使用価値」だとか、
「部下に対する上司の使用価値」などと、
商品以外にも広範囲に使える「使用価値」のほうが、普遍性の高い
表現だ。ビジネスシーンを離れて、
「妻に対する夫の使用価値」
なんていうのもアリである。

一方、世間が商品価値と誤認しがちな、「使用価値」を生み出すため
のあくまでも手段でしかない機能面のフィルターを通して捉えた
「商品価値らしきもの」を「機能価値」と私は呼ぶ。
コンサルタントも一つの商品なので、
「機能価値は大きい(頭が良い)けど使用価値が小さい(地頭が悪
い)コンサルにはなるなよ」
などと若手に言ってみたりもする。

この「機能価値」と「使用価値」という言葉を使って再度、先述の
ウォークマンの話をすると、こうなる。
初期のウォークマンとは、録音機能を削って再生機能を残す、すな
わちトータルでの「機能価値」を小さくすることによってオーディ
オ機器の新たな「使用価値」を創造したものであり、また、残った
再生機能の持つ「機能価値」を特に大きくすることなしに、再生機
能が生み出す「使用価値」を最大化した商品である。

世の中、とかくエンジニアというものは、「機能価値」で勝負する。
だから、
「この技術で、あれが出来る(機能価値1)、これが出来る(機能価
値2)」式の機能価値ベースの発想はお手のものである。
しかし、
「この技術で、あれが出来る(機能価値1)と、ユーザーはああ楽
しめる(使用価値1)、これが出来る(機能価値2)とユーザーはこ
う楽しめる(使用価値2)」という使用価値ベースの発想が、概して
得意でない。
ましてや、ソニーのウォークマンに見られるような、「機能価値を減
じて使用価値を増す」などという発想は、まずもってしない。

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