年俸制で会社は変わらない

2009.02.27

組織・人材

年俸制で会社は変わらない

小倉 広

人事制度の目的は人を育てること。単なる給与分配の道具ではありません。しかし、多くの人が給与で会社が変わると誤解しています。人事制度は組織にとって、一歩間違えれば社員のやる気を奪いかねない劇薬。人事制度の新常識を公開します。

「やればやっただけ給料をもらえれば、相当やる気になるでしょう」

身振りたっぷりに内山社長(仮名)が語ります。

「なにしろ今の制度は古くさい年功序列。これじゃあ、社員のやる気が出なくて当然ですよね」

 当社が発行する無料の人事制度小冊子を読んだ内山社長から、詳しく話を聞きたい、と呼ばれたのは一年前。その後成果主義型評価・報酬制度の設計をお手伝いすることになったのです。初回のミーティングで、人事制度に関する社長の要望や方針を伺うと…。

「給料にはっきりと差をつけた方がいいだろうね。やってもやらなくても同じ金額なら手を抜いた方が得だから。同期入社でも年間百万や二百万円、差がついたっていいんじゃないかな」。

「給料はあがるだけではなく、下がってもいい。結果を出していない人が給料だけあがり続けるのはむしろおかしいでしょう」

次々と給与の話が続きます。
どうやら内山社長の言うことをまとめると次のような主張になるようです。

『成果と給与を連動させる年俸制を導入すれば、必ずやる気があがる』

私は社長の話にうなずきながら、感じた小さな違和感を伝えるべきかどうかを迷い、まずは様子見のジャブを打つことにしました。

「ならば、フルコミッション、完全歩合にしてはどうでしょうか?」

うっ、と詰まりながら、それはちょっと…とつぶやく内山社長。歩合は確かにいい方法だが…、と言葉を濁します。私は思い直して、遠慮せずハッキリと伝えることに。

「社長、成果主義で企業が変わるなら、日本中の企業がフルコミッションにしていますよ。しかし実際はそうじゃない。なぜだと思いますか?給与だけで人は変わらない。実は人事制度で最も重要なのは評価制度なのです」

 多くの経営者は給与制度を変えれば組織が変わると誤解しています。経営学の古典であるハーズバーグの二元要因論によると、給与などの待遇は不満やマイナスを消す要因としては機能するが、やる気をあげるプラス創出には機能しない、とされています。

しかし、仕事の達成感、責任範囲の拡大、自己成長など、精神的な報酬が感じられればモチベーションはプラスへ高まる。これらは給与制度ではなく、評価制度によってもたらされるのです。

 不満が起きないよう、ある程度給与を成果に連動させる。そして、評価制度の仕組みづくりと、その運用を実現する『リーダーシップの開発』に最大のパワーをかける…。これが私たちの考え方です。

 金をばらまく物質的報酬ではなく、精神的報酬で組織を束ねていく。これこそが難しいが、本質的な組織づくりだといえます。私は熱く語り伝えました。無言で強くうなずく内山社長。

「金じゃなく、『志』のためにがんばれるヤツのための制度をつくるんですね。そういう会社にしたいなぁ」

どうやら私たちの人事制度ポリシーを明確に理解してもらえた様子。そしてこのポリシーは社長の経営に対する思いさえも変えてしまったようです。

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