今日は地下鉄・東京メトロの「マナーポスター」の話。首都圏の利用者でなければなじみは薄いだろうが、その歴史は意外にも古いのだ。
車内のマナー啓蒙のため1974年に始まったポスター。初代担当者は、グラフィックデザイン界の重鎮・河北秀也(かわきた・ひでや)氏だ。焼酎「いいちこ」の商品企画、パッケージ、ポスター、CMを一手に担ってブランド作りをしてきた方といえばわかりやすいだろうか。同氏は地下鉄路線図の制作の依頼を受け、続いてマナーポスターの制作に取り組んで1982年まで、マリリン・モンローの「帰らざる傘」、チャップリンの「独占者」など、次々に傑作を送り出して一躍名を馳せた。
そんな歴史のあるマナーポスターの現在の担い手は、マナーポスターが始まった1年前の1973年生まれの寄藤文平(よりふじ・ぶんぺい)氏。JTの「大人たばこ養成講座」やリクルートのフリーペーパー「R25」の表紙なども手がけている売れっ子アートディレクターだ。
マナーポスターに見覚えのない方、時々目にしている方も↓のリンク先を見てほしい。
http://www.tokyometro.jp/anshin/kaiteki/poster/index.html
(東京メトロWebサイト・ポスターのバックナンバーもあり)
「○○でやろう」シリーズで寄藤氏も独特の世界観を作り出していて、「今月は何だろう?」と月替わりを楽しみにして、感想をネットにアップしている人も少なくない。
シリーズは2008年4月に始まり、当初1年間の予定とされていたが、人気のためか現在も継続中だ。
ポスターには車内で目にするマナー違反の乗客が取り上げられており、「あーこんなヤツいるいる」的な関心を引きつける。デフォルメされたその姿の中に、「そこまで極端ではないが、多少自分もやっているかも・・・」と思わせる秀逸なクリエーティブだ。
その世界観の演出に一役買っているのは、毎回登場するキャラクター「メガネのおじさん」である。第1回の4月のポスターでは何となくそれらしい人がいるものの、明確にその姿は確認できない。
翌5月より、「マナー違反の乗客を遠くからじっと見つめる」という、独特のポジションで登場するようになった。やがて、単なる「傍観者」ではなく、時に荷物を押しつけられたり、傘の水滴でびしょびしょにされたりという「被害者」にポジションを変えるようにもなる。立場は違えど、表情一つ変えないというキャラクターとして一貫性があり、それが世界観を作っているともいえる。
シリーズには一つの傾向がある。「○○でやろう。」は、通常「家でやろう。」なのだが、時々別の言葉が入る。2008年8月の「海でやろう。」に続いて「山でやろう。」「庭でやろう。」11月の「店でやろう。」。2009年5月から「社でやろう。」「外でやろう。」「後でやろう。」8月の「渚でやろう。」まで。個人的には「家」以外のパターンが絶品であると思う。春~夏が寄藤氏の絶好調シーズンなのだろうか。
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2015.07.17
2009.10.31
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。