「お願いしまぁ~す!」。美容サロンの若いスタッフが来店促進のビラを配布する、おなじみの駅前や街中の風景だ。新規顧客の来店ばかりを狙っているように見える美容業界で、従来にない再来店促進の施策を始めたサロンがある。東証一部上場企業でもある大手、株式会社田谷だ。
TAYA、TAYA&CO.、TAYA blue label、TAYA INTERNATIONALなどを展開する株式会社田谷は、日経MJの5月28日の記事によると従来にない再来店促進策を6月上旬から展開するようだ。
<施術後2週間、髪形を無料診断、田谷、リピーター呼び込む>
記事によれば、同社の主力であるTAYAの全国114店舗で、パーマやカラーの施術後、ヘアスタイルを無料で診断するサービスを開始し、髪形が好みに合っていなければ、パーマなどの再施術をするという。
それだけなら何も珍しいことではない。筆者もカラーを利用していたときに、色の入り方がどうにも気に入らなくて通っているサロンでやり直してもらったこともある。しかし、あくまでそれは「クレーム対応」のような消極的サービスに過ぎない。
記事にある、<パーマやカラーは髪になじむまでに時間がかかるため、施術から数日後の状態をチェックすることでより効果的なアドバイスができる>というコメントにあるように、同社のサービスは、再施術や再来店を積極的に呼び込んでいる点に特徴がある。しかもそれは再施術だけではない。<新しい髪形の効果的なセットの仕方などの相談>や<「外出する前にシャンプーとブローで髪形を整えてほしい」といった要望にも対応する>というサービスまで、施術後2週間以内なら提供するのだという。
冒頭に記した美容サロンにおなじみの、新規顧客獲得施策とは一線を画すこの取り組みには大きな意義がある。
長引く景気の低迷は、消費者の節約志向を加速させ、「贅沢」なものだけでなく「不要不急」の需要を根こそぎ低迷させた。美容サロン業界はその直撃を受けた業種の一つだといえるだろう。顧客数そのものが大きく減る以上に、来店・利用頻度が低迷。髪を整えに来る間隔が長くなることが業界全体を冷え込ませているのである。上場企業である株式会社田谷の22年3月期の決算短信を見てみると、大幅な減収減益になっていることがわかる。
業績が落ち込んだときにどうするのか。極めて当たり前な話だが、「利益=売上げ-コスト」である。昨今、コスト削減の努力にはどの企業も血の出る思いで取り組んでいる。しかし、コスト削減の努力にも限界がある。とすれば、売上げそのものを回復させることが欠かせない。「売り上げ=客数×客単価×リピート率」である。田谷の施策は美容業界にありがちな、穴の空いたバケツで水を汲むような新規顧客獲得に偏重した施策を改める狙いがあるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。