日産自動車は、日立製作所から調達しているエンジン制御部品の入荷遅れのため、国内4つの完成車工場で3日間の操業停止を決めました。 これを単なる景気回復時の需給バランスの調整、日立の納期管理、サプライヤ管理の問題と見ていると問題の本質を見誤ります。 今回は、この日立の納期遅れによる日産の生産停止をケースに、その背景にあるモノづくり、調達・購買における構造変化について考えます。
今回の納期遅れは、このエンジン制御部品に含まれるカスタムICと呼ばれる日産向けの特注品を、日立が欧州半導体最大手のSTマイクロエレクトロニクスから調達できなかったことが原因となりました。カスタムICは顧客の仕様にあわせて2~3年の開発期間をかけて作りこまなければならず、開発費や生産コストを抑えるために、日立は調達先をSTマイクロ1社に絞り込んでいました。
つまり、今回の納期遅れには、モノづくりのグローバル化や電子化、価格競争の激化とコスト構造の抜本的転換の要請など、様々な要因が絡まっています。今回のケースについて、こうしたモノづくり、調達・購買における前提条件の変化を考えずに、昔は良かった的な発想で信頼関係を前提とした系列、長期的取引が解決策として挙げられているケースが目立ちますが、調達・購買における構造変化により、そうした方法は問題解決の有効な手段ではなくなっています。
信頼関係を前提とした系列、長期的取引を軸にしてきた自動車業界、トヨタグループですら、その道には戻れないことを自覚しています。たとえば、トヨタグループのダイハツ工業の白水宏典会長が、昨秋からの調達改革の一貫として、6月下旬にひそかに足を運んだのは、トヨタ系列ではなく、他社系列のメーカです。また、この調達改革において新規開拓した13社の内、3社は中国などの海外メーカで、同社が国内向けの軽自動車の部品を海外メーカから調達するのは極めてまれとの事です。(出所:日本経済新聞 2010年7月16日 11面)
ダイハツがこうした動きを進めているのは、他ならぬ、トヨタの調達方針の変化があります。5年ほど前、新興国向け小型車の開発に乗り出すトヨタから声が掛かったのですが、当時のダイハツでは採算があわせられず断念するはめになりました。結局、トヨタは、インドで初の新興国専用車を発売するにあたり、現地で20社以上の部品会社を新規開拓しましたが、それでも当初目指した70万円の目標価格を上回りそう(出所:同上)で、系列、長期的取引を強みとしていたトヨタ、トヨタグループでさえ、厳しく取引先を選別していく動きは加速こそすれ、収まる気配はありません。
もう一つ見落としてならないのは、日本企業は、たとえ大企業であっても、海外メーカにとって見れば、もう神様ではなく、単なるお客様の1社に過ぎなくなってきている点です。
今回のケースで言えば、STマイクロが昨年公表した主要顧客リストには、独ボッシュ、米デルファイ、デンソーなどの自動車部品大手の名前ばかりで日立の名前は見当たりません。(出所:日本経済新聞 2010年7月14日 11面)
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます