お好み焼きをメインディッシュに、フルコースのディナーを仕立てる。日本で初めて「お好み焼きディナーコース」をメニュー化した千房は、その人材募集についても日本初、驚くべきやり方に挑戦していた。
最終回 「刑務所内で募集して、面接して、内定する」
■日本初の刑務所内面接と採用
「お好み焼きディナーの他に、うちにはもう一つ日本初があります。実は今年、受刑者を刑務所の中で面接して、採用内定を出しました」
刑を勤め上げた人間を採用する企業はいくらでもある。しかし、まだ刑期の終わっていない人間を、わざわざ刑務所の中で面接し、内定まで出す。日本初のとんでもない試みは、山口県にある美祢社会復帰促進センターからの依頼がキッカケとなった。
「ここは、比較的刑の軽い受刑者を対象に、矯正教育に力を入れている施設です。受刑者でもきちんとがんばったら、認めてもらえる。それがわかれば、他の受刑者にもきっとよい影響を与えるでしょう」
約900人の受刑者から集まった応募者は13人、そこから男女2名ずつに絞り込まれた。そして人事部長と共に中井社長自らが面接に赴く。
「刑務所というと、恐いところ。目つきの悪い、社会に反発してすねている人が集まっているところ。そんな先入観は完全に覆されました。美祢にいた人たちは、普通の人とまったく変わらない。みんな一生懸命に働いていました」
面接した4人には、共通点があったという。おそらくは、それが間違いを起こす遠因だろうと中井社長は指摘する。家庭崩壊である。
「もちろん、どんな事情があるにせよ、罪を犯した人間がいちばん悪い。ただしまわりの環境の責任もいくばくかはある。自分のことをきちんと見守ってくれる人間が、一人もいない。そんなとき、人は弱いものです」
面接をすると情が移るという中井社長は、結果的に4人の最終候補のうち2人の採用を内定する。言うまでもないことだが、千房は営利企業であり、更正施設ではない。
「私自身、学歴はありません。中学校までの成績も決して良い方ではありませんでした。家は貧しかった。ただ兄弟や親戚がたくさんいて、いつも誰かが私を見守ってくれていました」
誰かが、自分のことを見守ってくれている。気にしてくれている。そのつながり感こそが、人を社会につなぎ止める力となるのだ。
■従業員が胸張って自信をもって働けるかっこいい店
「好きこそものの上手なれというけれど、それだけやないのと違うかなあ。私の場合は、お好み焼き屋が最初はイヤで仕方がなかった。だからこそ、ここまでこれたんやと思います」
何とか、かっこいいお好み焼き屋を作りたい。その思いが、従業員の服装一つにも表れている。千房ではTシャツに前掛けではなく、きちんとしたシャツにネクタイ着用だ。
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FMO第36弾【千房株式会社】
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2010.07.20